
| 【この記事のポイント】 いじめが起きると、学校は「謝罪の会」を設けようとします。しかし、謝罪がなされても状況が好転せず、かえって被害者が絶望や屈辱感を与えられることがあります。教育学の研究は、謝罪が本来きわめて複雑な行為であり、被害者の心理的ニーズを満たすものでなければ受け入れられないこと、日本では「謝罪はされたら受け入れなければならない」と考えられがちなことを指摘しています。国の方針も、単に謝罪をもって安易に解消とすることはできないと明記しています。本記事では、謝罪をめぐる落とし穴を、被害児童生徒の立場から解説します。 |
1. 「謝罪の会」の後に、事態が悪化することがある

いじめが表面化すると、学校は加害児童生徒に謝罪させ、被害児童生徒との間で「謝罪の会」「仲直りの会」といった場を設けようとすることがあります。素朴に考えれば、加害者が被害者に謝ることは当然のことのように思われます。
ところが、千葉大学教育学部の藤川大祐教授による研究論文「いじめ問題における謝罪―謝罪指導の改善のために―」(授業実践開発研究 第17巻、2024年)は、複数の重大事態の調査報告書や先行研究を整理し、加害者が謝罪したにもかかわらず、状況が改善せず、いじめが継続したり、被害者が登校できなくなったりすることがある、という現実を明らかにしています。ある調査委員会の報告書は、謝罪の儀式をさせて万事終了というような流れになっていたと推測されるとし、表面的には解決したように見えても、それぞれの中で消化しきれていないことも多く、次のいじめにつながったり陰湿化したりする場合もある、と指摘しているといいます。
| 研究が整理した「謝罪の落とし穴」 ・加害者への指導や反省が不十分なまま、形式的にのみ謝罪がなされることがある。 ・謝罪がなされたことで、いじめ問題が終わったことになってしまうことがある。 ・教師は解決を急ごうとして、加害者にすぐに謝罪をさせようとすることがある。 ・形式的な謝罪の場合、被害者は絶望や屈辱感を与えられることがある。 ・加害者の意に反して謝罪がなされ、いじめが継続してしまうことがある。 |
2. 謝罪は「複雑で困難」な行為である

この論文が示す最も重要な視点は、謝罪という行為が本来きわめて複雑だ、ということです。謝罪研究では、謝罪は違反行為の認諾・反省・説明・補償といった複数の要素を含みうるとされ、その中核には、被害の発生について自分に責任があると認める「責任受容」と、自分が悪かったと認識し反省していることを表明する「悔悛表明」があるとされています。
そして、成功した謝罪は被害者の心理的ニーズを満たし、癒やしの役割を果たすものだとされます。その心理的ニーズの例としては、自尊心や尊厳の回復、侵害行為が被害者側の責任ではなかったことの確認、関係における安全性の確保、被害の補償などが挙げられています。つまり、謝罪は一方的に提供されるものではなく、被害者との双方向的な交渉(negotiation)と考えられるべきものだ、というのです。
ここから導かれるのは、加害者が被害者のニーズを正確に把握したうえで謝罪を行う必要がある、つまり謝罪には戦略性が必要だ、ということです。しかし、その戦略性を子どもである加害者本人に求めるのには無理があります。しかも被害者も子どもであり、自らの心理的ニーズを分かりやすく伝えてくれることは期待できません。だからこそ、謝罪の場を設けるには周到な準備が必要であり、準備なしに謝罪をさせたり、謝罪の方法を加害者に委ねたりすることは許されない、と論文は述べています。
3. 「謝られたら受け入れなければならない」という圧力

被害を受けた子どもと家族にとって、とりわけ重要な指摘があります。謝罪研究では、謝罪を受ける側は「スクリプト(台本)」に従って反射的に謝罪を受け入れてしまう、あるいは寛大に見えるようにさせる圧力が働く、という考え方が示されています。
論文は、日本においては人間関係の修復が重視されることから謝罪が多くなされる傾向があり、親や教師による指導でも謝罪が促されていること、そのため、謝罪がなされたら受け入れなければならないと教えられている子どもが多いことを指摘します。そして、被害者は不本意でも謝罪を受け入れてしまい、そのことが新たな苦痛や絶望につながる恐れがある、と警鐘を鳴らしています。自らの心理的ニーズが満たされる機会を、永遠に失うことになりかねない、というのです。
| 【重要】謝罪を受け入れるかどうかは、被害者が決めてよい 論文は、謝罪を受けるか否かはあくまでも被害者の意思のみで決めてよいということを伝えるべきであり、間違っても謝罪を受けるよう誘導してはならない、としています。「謝ってくれたのだから受け入れなさい」という圧力に、被害を受けた子どもが従う必要はありません。 |
4. 国の方針も「謝罪だけで終わらせない」

こうした研究の指摘は、国の方針とも整合します。
◆ 単なる謝罪で安易に解消としない
文部科学省の「いじめの防止等のための基本的な方針」は、「いじめは、単に謝罪をもって安易に解消とすることはできない」と明確に定めています。謝罪は解決の入口ではあっても、それ自体が解決ではない、ということです。
◆ 形式的な謝罪は、かえって重大化を招く
文部科学省の「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)は、形式的な謝罪によって事案を解決させる指導が繰り返されると、「謝れば許される」という間違った理解が醸成され、本質的な反省がないままいじめの重大化につながる可能性があると指摘しています。そのうえで、単に「そのようなことをしてはいけない」と伝えたり、形式的な謝罪をさせたりするだけで指導を終わらせてはならない、と強く戒めています。
◆ 「謝罪の気持ちを醸成させる」指導
「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)は、学校が、いじめを行った児童生徒に対して個別に指導を行い、いじめの非に気付かせ、対象児童生徒への謝罪の気持ちを醸成させることを求めています。無理やり言葉にさせるのではなく、自己の行為の重大性を認識させることが重要だ、という考え方です。
5. いじめの「解消」とは何か

謝罪と密接に関わるのが、いじめの「解消」の判断です。学校が「もう解決しました」と言うとき、その判断は正しいのでしょうか。国の基本方針は、いじめが解消している状態と認められるためには、少なくとも次の2つの要件が満たされている必要があるとしています。
| 要件 | 内容 |
| ① いじめに係る行為が止んでいること | 心理的・物理的な影響を与える行為(インターネットを通じたものを含む)が止んでいる状態が相当の期間継続していること。「相当の期間」は少なくとも3か月が目安。被害の重大性等からより長期が必要と判断される場合は、目安にかかわらず長期の期間を設定する |
| ② 被害児童生徒が心身の苦痛を感じていないこと | 被害を受けた子ども自身が、苦痛を感じていない状態であること |
この2要件に照らせば、加害者が謝罪したその日に「解消」と判断することはできません。少なくとも3か月という目安の期間、行為が止んでいる状態が続き、かつ被害を受けた子ども自身が苦痛を感じていない状態になって、初めて解消といえるのです。学校から「謝罪も済みましたので解決とします」と言われたとき、この基準に照らして確認することが大切です。
6. 望ましい謝罪の進め方

では、謝罪はどのように進められるべきなのでしょうか。論文が示す改善策の要点は、次のようなものです。まず、いじめの可能性がある事態が生じた際には、謝罪やその申し入れを含め、加害者と被害者との間の直接のコミュニケーションを止める。次に、教師が被害者・加害者双方から丁寧に事情を聴き、どのような事実があったのか、どのような思いをしたのか、どのような対応を望んでいるかを聴き取る。そして、謝罪も含めた支援・指導の方針を組織的に検討する、という流れです。
そのうえで、加害者に謝罪の希望があり、被害者の心理的ニーズを満たす謝罪が可能だと判断された場合に、教師が被害者に対して、加害者に謝罪の希望があることと考えられる謝罪の内容を説明し、謝罪を受けることを希望するか否かを尋ねる。このとき、謝罪を受けるか否かは被害者の意思のみで決めてよいと伝え、誘導してはならない、とされています。加害者が謝罪を希望しないのであれば、謝罪を強要すべきではない、とも明記されています。
| 謝罪の場で、あってはならないこと ・準備なく謝罪の場を設け、謝罪の方法を加害者に委ねること ・被害者に謝罪を受け入れるよう誘導 ・圧力をかけること ・握手やハグなどの身体接触による和解の演出 ・謝罪によっていじめ案件が終結したかのような印象を作ること |
論文は、謝罪の場には教師が同席し、被害者に新たな苦痛を与えるようなやりとりがあればすぐに止められるようにすること、被害者も加害者もその場にいることが難しい場合にはいつでも退出できるようにすることを求めています。そして、謝罪の後も、教師は継続的に双方の様子を注視し、被害者が新たな苦痛を受けている可能性が生じた場合にはすぐに支援・指導を行えるようにすべきだ、としています。
7. 謝罪が受け入れられない場合

どれだけ丁寧に進めても、被害者が謝罪を受け入れられないことはあります。論文は、心身の苦痛や不登校といった被害は取り戻すことが不可能であり、被害者の性格や考え方によっては、どのようなやり方でも謝罪が受け入れられないことはある、と率直に述べています。
その場合、加害者にできる最善の態度は、被害者に新たな苦痛を与えないようにすることだとされます。いじめ行為を繰り返さないのは当然として、他の者にいじめ行為を行うこと、そして被害者が断っているのにしつこく謝罪を申し入れることも、被害者の意向を軽視するものとして新たな苦痛を与える、と指摘されています。謝罪を申し入れた以上、被害者に抱かせた期待を裏切らないことに行き着く、という整理です。
8. まとめ――「謝ればいい」ではない

いじめ問題における謝罪は、安易になされるべきものではありません。準備のない謝罪、形だけの謝罪、被害者に受け入れを迫る謝罪は、被害を受けた子どもをさらに深く傷つけます。国の方針も、単なる謝罪で安易に解消とすることはできないと明記し、形式的な謝罪がかえって重大化を招くと戒めています。学校から「謝罪の場を設けます」と提案されたとき、あるいは「謝罪も済んだので解決です」と言われたとき、その進め方がお子さんの気持ちを本当に大切にしたものになっているかを、立ち止まって確認してください。納得できないときは、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。
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【出典・参照条文】
・藤川大祐「いじめ問題における謝罪―謝罪指導の改善のために―」授業実践開発研究 第17巻(2024)千葉大学教育学部(https://ace-npo.org/fujikawa-lab/file/pdf/bulletin/2024/003.pdf )
・文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)第2の3(4)/「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)【1-7】/「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)第11章第1節
・いじめ防止対策推進法第2条・第23条
・(注)本記事は論文の要旨を一般向けに解説したものです。個別事案での対応は事情により異なります。
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
学校・いじめ
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。






