いじめの調査報告書を「見せてもらえない」とき 被害者がもつ「知る権利」と学校の説明責任――被害児童生徒・保護者の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
学校がいじめを重大事態として調査したのに、その報告書を「個人情報保護」を理由に見せてもらえない――そんな悩みは少なくありません。宮城県の高校では、いじめ重大事態として第三者委員会が調査報告書を提出した後、保護者の公表要望に対し学校側が事実関係を公表しない方針を決めたと報じられました。本記事では、いじめ防止対策推進法第28条が定める情報提供義務と、国のガイドラインが求める調査報告書の提供・説明のルールを示し、「個人情報保護を盾に説明を怠ってはならない」という考え方を、被害者の立場から解説します。

1. 「調査はした。でも結果は見せられない」という壁

1. 「調査はした。でも結果は見せられない」という壁

いじめの重大事態調査は、被害を受けた子どもと家族にとって、「何が起きたのか」「学校の対応は適切だったのか」を知り、傷ついた心を整理し、再発防止と回復に向けて歩み出すための、極めて重要な手続です。ところが、せっかく調査が行われても、その結果である報告書を見せてもらえない、あるいは内容が大幅に黒塗りされている、という相談が後を絶ちません。

2026年6月に報じられた宮城県の事案では、無視・暴言・体当たりなどのいじめを受けて不登校になった女子生徒について、学校側が2024年10月にいじめ重大事態として県に報告し、学校が設置した第三者委員会が2026年3月に調査報告書を県に提出したとされます。しかし、保護者が学校側に調査報告書の公表を求めたところ、学校側は個人情報の保護を理由に事実関係を公表しない方針を決定したと報じられました。

被害者側が抱く当然の疑問
・なぜ被害を受けた本人や家族が、調査の結果を知ることができないのか。
・「個人情報保護」は、本当に説明を拒む理由になるのか。
・報告書を見られないまま、どうやって納得し、前に進めばいいのか。

2. 法律は、被害者側への「情報提供」を義務づけている

2. 法律は、被害者側への「情報提供」を義務づけている

いじめ防止対策推進法第28条第2項は、学校の設置者または学校が重大事態の調査を行ったときは、「いじめを受けた児童生徒及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供する」と定めています。これは努力目標ではなく、法律上の義務です。被害者側への情報提供は、調査の出発点であると同時に到達点でもあるのです。

なぜ法律がここまで明確に被害者側への情報提供を求めているのか。それは、調査がブラックボックス化したり、個人情報保護を理由に報告書の開示が拒まれたりすると、被害を受けた子どもと家族が「何があったのか分からないまま」放置され、回復の機会そのものを奪われてしまうからです。いじめ防止法は、被害者側の「知る権利」に応えることを、学校・調査主体の責務として位置づけています。

3. 調査の「途中」も「結果」も、被害者側に説明される

3. 調査の「途中」も「結果」も、被害者側に説明される

◆ 調査中の経過報告

国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)は、重大事態調査が長期間を要する場合があり、被害者側は進捗状況に高い関心を持っているため、これに応えることが調査主体の重要な役割であるとしています。被害者側と丁寧に連絡を取り合い、定期的かつ適時のタイミングで経過報告を行うことが求められています。「調査中だから何も言えない」と長期間放置することは、ガイドラインの趣旨に反します。

◆ 調査結果(報告書)の提供と説明

同ガイドラインは、調査結果の説明方法について、基本的には調査報告書の本体またはその概要版資料を提示・提供し、口頭で説明する方法が考えられるとしています。そのうえで、関係者のプライバシー保護に配慮する必要はあるとしながらも、いたずらに個人情報保護を盾に説明を怠るようなことがあってはならない、と強く戒めています。

【重要】「個人情報保護」は説明を一切しない理由にはならない
プライバシーへの配慮は、第三者の固有名詞や無関係な個人情報をマスキングするなど、限定された範囲で行うべきものです。それを口実に、被害を受けた本人・保護者に対して事実関係の説明そのものを拒むことは、ガイドラインが明確に戒める対応です。被害者側には、何があったのかを知る正当な利益があります。

4. 報告書を「見せてもらえない」ときの対応

4. 報告書を「見せてもらえない」ときの対応
段階とり得る対応
まず学校・調査主体へ法第28条第2項に基づく情報提供と、ガイドラインに沿った報告書(本体または概要版)の提示・口頭説明を、書面で正式に求める
教育委員会・自治体へ公立校では設置者である教育委員会、私立校では所轄庁を通じ、適切な情報提供がなされるよう申入れを行う
情報公開請求の活用公的機関が保有する文書については、情報公開制度の活用も選択肢。黒塗りの範囲が過大な場合は不服申立ても検討
弁護士による代理交渉面談の場に弁護士が同席して報告書を精読・確認する、概要版の提供を求めるなど、実質的に内容を把握する交渉が可能

「全文をそのまま渡せない」と言われた場合でも、諦める必要はありません。たとえば、面談の場で弁護士が同席し、提示された報告書を時間をかけて精読・確認できるようにすること、概要版の提供を求めることなど、代替的な方法によって実質的に内容を把握する道があります。重要なのは、「見せられない」の一言で説明責任を免れさせないことです。

5. 「知ること」は、回復と再発防止の出発点

5. 「知ること」は、回復と再発防止の出発点

被害を受けた子どもと家族にとって、調査報告書を知ることは、単なる手続上の権利ではありません。何が起きたのかを正確に理解することは、子どもが自分を責める気持ちから解放され、安心を取り戻すために欠かせません。また、学校の対応のどこに問題があったのかを明らかにすることは、同じ被害を繰り返さないための再発防止にも直結します。報告書の開示・説明は、過去の清算であると同時に、未来を守る営みでもあるのです。

相談・通報窓口
・学校/教育委員会(公立)・所轄庁(私立):情報提供・報告書の説明を正式に求める
・24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310):子ども本人
・保護者が利用できる無料相談窓口
・弁護士:報告書の開示交渉、説明会への同席、損害賠償請求まで対応可能

5. なぜ「公表」と「被害者への提供」は分けて考えるのか

5. なぜ「公表」と「被害者への提供」は分けて考えるのか

ここで一つ整理しておきたいのは、「広く社会に向けた公表」と「被害を受けた本人・保護者への提供・説明」は、レベルの異なる問題だということです。報道される事案では、保護者が「公表」を求めたのに学校が個人情報保護を理由に拒んだ、という形で語られることがあります。しかし、被害者側が本当に必要としているのは、まず何よりも自分たち自身が事実を知ることです。第三者のプライバシーに配慮しつつ、被害を受けた当事者に対して事実関係を説明することは、不特定多数への一般公開とは別の問題として、法とガイドラインが明確に求めているものです。

したがって、「個人情報保護のため公表できない」という説明が、そのまま「被害者本人にも一切説明しない」ことの理由にはなりません。一般への公表の是非と、被害者側への提供・説明の義務は切り分けて考える必要があり、後者は法第28条第2項とガイドラインによって裏づけられた、被害者側の正当な権利なのです。学校から「公表はできない」と言われたときこそ、「では、私たち当事者への説明と報告書の提示はどうなりますか」と問い直すことが重要です。

押さえておきたい区別
・一般社会への「公表」:プライバシー等への配慮から慎重な判断が必要な場面がある
・被害児童生徒
・保護者への「提供・説明」:法第28条第2項とガイドラインが明確に求める義務
・「公表できない」ことは、「当事者への説明を拒む」理由にはならない

6. 被害者側が確認したいチェックポイント

6. 被害者側が確認したいチェックポイント
確認したいこと根拠・ポイント
調査中、定期的に経過報告を受けているかガイドライン(令和6年8月改訂)は定期的・適時の経過報告を求めている
報告書本体または概要版の提示・提供を受けられるかガイドラインは報告書本体または概要版の提示・提供と口頭説明を基本としている
黒塗り(マスキング)の範囲が過大でないかプライバシー配慮は限定的に。説明そのものを拒む口実にしてはならない
説明の場に同席者(弁護士等)を認めてもらえるか理解と確認のための合理的な配慮として求めることができる

また、報告書の説明を受ける際には、内容をその場で十分に理解しきれないことも少なくありません。専門用語が多く、分量も多いためです。必要に応じて、説明の記録を取ること、後日改めて質問する機会を確保すること、弁護士など専門家の助言を得ながら内容を吟味することが、被害者側の正当な利益を守るうえで有効です。一度の説明で完結させる必要はなく、納得できるまで確認を重ねてよいのです。

7. まとめ――「説明されない」を当たり前にしない

7. まとめ――「説明されない」を当たり前にしない

宮城県の事案で、保護者が報告書の公表を求めたのは、特別なことではありません。被害を受けた当事者が、自分の身に何が起きたのかを知ろうとするのは、ごく当然の願いです。いじめ防止法第28条第2項と国のガイドラインは、その願いに応えることを学校の義務として明確に定めています。「個人情報保護だから」と説明を拒まれて納得できないとき、その対応が本当に法やガイドラインに沿ったものなのか、一度専門家に確認してみてください。被害者の知る権利を実現するために、私たちがお手伝いします。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典】
・ミヤギテレビ(日テレNEWS/Yahoo!ニュース)「“無視・暴言・体当たり” いじめ受け不登校…常盤木学園高の女子生徒、『いじめ重大事態』調査報告書の公表を学校側に求める(宮城)」2026年6月配信(https://news.ntv.co.jp/n/mmt/category/society/mm03a7874071474ac799228020d042ce74
・いじめ防止対策推進法第28条/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)第8章・第9章/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。