子どもの「SOSサイン」に、大人はどう向き合うべきか 希死念慮の訴えと教員の対応をめぐる裁判から考える――被害児童の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
いじめを受けた児童が「わたしは死ねばいいのに」とノートにつづったところ、担任教師がそのページに花丸を付けて返却した――奈良市のこの事案で、奈良地裁は令和8年、児童側の請求を棄却しました。判決は、花丸などの記載を、児童の援助希求行動を積極的に踏みにじった違法行為とまでは認められないとしました。しかし、裁判で違法と認められないことと、教育現場としてあるべき対応とは、必ずしも同じではありません。本記事では、子どもが発するSOSサインに大人がどう向き合うべきかを、国のガイドラインに沿って被害児童の立場から解説します。

1. 「わたしは死ねばいいのに」に、花丸が返ってきた

1. 「わたしは死ねばいいのに」に、花丸が返ってきた

報道によれば、奈良市の小学校で、同級生からいじめを受けていた女子児童が、ノートに「わたしは死ねばいいのに」とつづって提出したところ、担任教師はそのページに花丸を付け、励ましの言葉を書き添えて返却したとされます。児童と両親は、この記載や学校のいじめへの対応が不適切だったとして、奈良市に損害賠償を求めました。

この事案は、多くの人に強い違和感を残しました。子どもが振り絞った切実なSOSに対し、返ってきたのが花丸だった――その事実に、「なぜ気づいてもらえなかったのか」と胸を痛めた方も少なくないでしょう。本記事は、この違和感の正体を、法律とガイドラインの観点から丁寧に解きほぐしていきます。

この記事で考えること
裁判所は、なぜ「違法とまでは認められない」と判断したのか。
裁判で違法と認められないことと、あるべき対応とは同じなのか。
子どもが発するSOSサインに、大人はどう向き合うべきか。

2. 裁判所の判断――「違法とまでは認められない」

2. 裁判所の判断――「違法とまでは認められない」

奈良地方裁判所は、児童側の請求を棄却しました。報道によれば、判決は、花丸などの記載について、児童の希死念慮を促進させる趣旨の記載と理解されるものではあるとしつつ、児童の援助希求行動を積極的に踏みにじった違法行為であるとまでは認められない、としました。学校のいじめへの対応についても、法的義務に違反する行為があったとは認められないとして、請求を退けたとされます。

ここで理解しておきたいのは、裁判所が「花丸の対応は適切だった」「問題はなかった」と述べたわけではない、という点です。裁判で問われるのは、あくまで「法的な義務に違反する違法な行為があったか」「損害賠償責任が生じるか」です。裁判所は、その厳格な基準のもとで、賠償責任を生じさせるほどの違法性までは認められない、と判断したにすぎません。望ましい対応だったかどうかという評価とは、次元の異なる話なのです。

【ポイント】「違法ではない」=「問題がない」ではない
裁判所が損害賠償責任を認めなかったことと、その対応が教育現場としてふさわしかったかどうかは、別の問題です。法的責任が生じなくても、子どものSOSに寄り添えなかったという課題は残ります。裁判の結論だけで、対応の当否を判断するべきではありません。

3. ガイドラインが示す、SOSサインへの向き合い方

3. ガイドラインが示す、SOSサインへの向き合い方

では、子どもがSOSを発したとき、大人には何が求められているのでしょうか。国のガイドラインや留意事項集は、そのあるべき姿を具体的に示しています。

◆ 「大丈夫」の裏にある本音を見逃さない

文部科学省の「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)は、児童生徒からいじめの訴えがあった際、「よくあるトラブル」と先入観で決めつけないこと、安心できる環境で個別に傾聴することを求めています。そして、本人の「大丈夫」「何でもない」という言葉の裏に本音が隠れていないか立ち止まって考え、声のトーンや表情、態度、体調といった言葉以外のSOSサインを見逃さない対応が必要だとしています。「死ねばいい」という言葉は、まさに見逃してはならない最大級のサインです。

◆ 希死念慮の予兆には、組織で対応する

文部科学省の「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」(令和7年12月改訂)は、児童生徒が自殺をほのめかしたり、深刻な自傷行為に及んだりするなど、重大な危険の予兆を捉えた際には、校長をリーダーとする校内の危機対応チームを組織し、危険度に応じた対応を直ちに行うことが重要だとしています。担任が一人で抱え込むのではなく、学校全体で受け止め、必要に応じて専門機関につなぐことが求められているのです。

◆ 被害児童を「徹底して守り通す」

国のいじめ防止基本方針は、学校は、いじめられた児童生徒を徹底して守り通す決意で対応し、安全を確保しなければならないとしています。信頼できる大人や専門家(スクールカウンセラー等)と連携して被害児童生徒に寄り添い支える体制を作り、必要に応じたPTSD等のケアを含む継続的な支援を行うことが求められています。

4. 「援助希求」を受け止めることの意味

4. 「援助希求」を受け止めることの意味

「わたしは死ねばいいのに」という言葉は、裏を返せば、「誰かに気づいてほしい」「助けてほしい」という援助希求(SOSを発して助けを求める行動)でもあります。子どもが自分の苦しみを言葉にして大人に差し出すことは、勇気のいる、そしてかけがえのない行動です。その差し出された手を、大人がしっかりと受け止められるかどうかが、その後の回復を大きく左右します。

だからこそ、SOSに気づき、まずは子どもの気持ちを否定せずに受け止め、安全を最優先に確保し、専門的な支援につなぐことが重要になります。子どもを励ますこと自体は大切ですが、深刻な希死念慮の訴えに対しては、励ましの前に、まず「気づく」ことと「受け止める」ことが必要なのです。

5. 納得できないとき、できること

5. 納得できないとき、できること

学校の対応に納得できないとき、そして裁判の結論にも違和感が残るとき、被害を受けた子どもと家族には、いくつかの道があります。学校・教育委員会に対して、いじめへの対応や再発防止について説明を求めること。重大事態にあたる場合は、その調査を求めること。そして、判決に不服がある場合には、上級の裁判所に控訴・上告して争うこともできます。裁判の結論は審級によって変わり得るものであり、一つの判断で全てが決まるわけではありません。

相談・支援の窓口
・24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310):子ども本人・保護者が利用できる文部科学省の無料相談窓口
・学校/スクールカウンセラー/教育委員会:対応や重大事態調査について相談・要望ができる ・小児科
・児童精神科など専門の医療機関:心身のケアを最優先に
・弁護士:学校・行政への申入れ、損害賠償請求などの法的対応

6. 学校に求められる「組織的な対応」

6. 学校に求められる「組織的な対応」

SOSサインへの対応は、担任教師一人の資質や気づきに委ねられるべきものではありません。国のガイドラインや生徒指導提要は、いじめを把握したら、担任が抱え込まず、生徒指導主事・養護教諭・学年主任・スクールカウンセラーなどで対応チームを組織し、指導方針を共有したうえで役割分担して対応することを求めています。一人の教員の判断に頼る体制では、重大なサインが見過ごされるリスクが高まってしまいます。

この観点からすると、「死ねばいい」という深刻な訴えが、担任限りで処理され、学校全体の組織的対応や専門機関への連携につながらなかったとすれば、そこには制度上の課題があったといえます。被害を受けた子どもと家族としては、学校に対して、こうした組織的な対応が実際にとられているのか、記録に基づいて確認していくことが大切です。個人の問題としてではなく、学校の体制の問題として向き合ってもらうことが、再発防止にもつながります。

学校の対応で確認したいこと
担任一人で抱え込まず、組織的に対応しているか
スクールカウンセラー等の専門職と連携しているか
深刻なサインを、危機対応として受け止めているか

7. まとめ――「気づける大人」でありたい

7. まとめ――「気づける大人」でありたい

この事案が私たちに突きつけるのは、「子どものSOSに、大人は本当に気づけているか」という問いです。裁判で違法と認められなかったとしても、子どもが発した切実なサインに寄り添えなかったという事実は残ります。国のガイドラインは、SOSサインを見逃さず、被害児童を徹底して守り通すことを、繰り返し求めています。お子さんの様子に気になるサインを感じたとき、あるいは学校の対応に違和感を覚えたとき、どうか一人で抱え込まず、専門家や相談窓口に声をかけてください。子どもの「助けて」を受け止める社会であるために、私たちも力を尽くします。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずは弁護士法人グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典・参照条文】

  • 報道(奈良市の小学校でのいじめをめぐる国家賠償請求訴訟。奈良地方裁判所が児童側の請求を棄却したとの報道)(参照:Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/28f0fe33f204b7683459a7859144f09ff210b87c
  • 文部科学省「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)【1-1】【1-2】/「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」(令和7年12月改訂)第2章/「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)第2の3
  • (注)本記事は自殺・希死念慮という繊細なテーマに触れています。お子さんやご自身がつらい気持ちを抱えている場合は、24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)などの相談窓口や専門の医療機関に、どうか一人で抱え込まずご相談ください。
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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。