
| 【この記事のポイント】 いじめの加害者が子どもの場合、「本人に損害賠償を請求できるのか」「親に請求できるのか」は、加害児童の年齢(責任能力の有無)によって法律上の道筋が変わります。おおむね11〜12歳を境に、責任能力がない子どもは本人が賠償責任を負わない一方、親などの監督義務者が民法714条により責任を負います。責任能力がある子どもの場合は本人が責任を負い、さらに親自身の監督義務違反が問われることもあります。本記事では、被害を受けた子どもと家族が誰にどのように賠償を求められるのかを、民法の規定に沿って分かりやすく解説します。 |
1. 「子どものしたことだから」では済まされない

いじめによって子どもが心身に深い傷を負ったとき、被害を受けた家族が「加害者に責任をとってほしい」と考えるのは当然のことです。もっとも、加害者が未成年の子どもである場合、「本人に請求できるのか」「親に請求すべきか」という点で、大人同士のトラブルとは異なる法律上の考え方が必要になります。その分かれ目となるのが、加害児童に『責任能力』があるかどうかです。
結論を先に述べると、加害児童の年齢によって、請求できる相手と法律上の根拠が変わります。ここを正しく理解しておかないと、本来請求できるはずの相手を見落としたり、逆に見込みの乏しい請求に労力を費やしてしまったりすることになりかねません。
| この記事のポイント ・加害児童に『責任能力』があるかどうかで、請求の相手と根拠が変わる。 ・責任能力の目安は、おおむね11〜12歳(小学校卒業程度)とされる。 ・責任能力がなければ親などの監督義務者が、あれば本人が、原則として責任を負う。 |
2. 「責任能力」とは何か

民法712条は、未成年者が他人に損害を加えた場合でも、その行為の責任を弁識するに足りる知能(=責任能力)を備えていなかったときは、賠償の責任を負わないと定めています。責任能力とは、簡単にいえば、「自分のしたことが法律上どのような責任を生じさせるかを、おおよそ理解できる能力」のことです。
この責任能力は、何歳になれば一律に備わる、と法律で決められているものではありません。子ども一人ひとりの発達の程度に応じて、個別に判断されます。もっとも、裁判例の積み重ねから、一つの目安として、おおむね11〜12歳程度(小学校卒業程度)が境目とされることが多いといわれています。したがって、小学校の低・中学年の子どもは責任能力がないと判断されやすく、中学生以上は責任能力があると判断されるのが一般的な傾向です。
| 【注意】年齢はあくまで「目安」です 11〜12歳という数字は、あくまで一般的な目安にすぎません。実際には、加害行為の内容や子どもの発達の程度などを踏まえて個別に判断されます。また、「責任能力がなかった」ことは、原則として加害者側が主張・立証すべき事柄とされています。 |
3. 責任能力がない場合――親などの「監督者責任」

加害児童に責任能力がないと判断される場合、その子ども本人は賠償責任を負いません。その代わり、民法714条1項により、その子どもを監督する法定の義務を負う者(親権者である親など)が、原則として賠償責任を負います。これを「監督義務者の責任(監督者責任)」といいます。
この監督者責任には、免責の余地も定められています。民法714条1項ただし書は、監督義務者が監督義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生じたであろうときは、責任を負わないとしています。もっとも、実際の裁判では、親の監督義務違反がなかったとして免責が認められるケースは、かなり限られているのが実情です。つまり、責任能力のない子どものいじめについては、被害者側は親に対して賠償を求めやすい構造になっているといえます。
| 加害児童の状況 | 本人への請求 | 親などへの請求 |
| 責任能力なし(目安:11〜12歳未満) | ×(民法712条により免責) | ○ 民法714条1項(監督者責任) |
| 責任能力あり(目安:11〜12歳以上) | ○ 民法709条(不法行為) | △ 民法709条(親自身の監督義務違反) |
4. 責任能力がある場合――本人と、親自身の責任

加害児童に責任能力があると判断される場合(中学生以上が典型です)、その子ども本人が、民法709条の不法行為に基づいて賠償責任を負います。この場合、民法714条の監督者責任は原則として問題になりません。
もっとも、「本人に責任能力があるから親には一切請求できない」というわけではありません。最高裁判所は、未成年者に責任能力がある場合でも、親の監督義務違反と損害の発生との間に相当因果関係が認められるときは、親自身が民法709条の不法行為責任を負うことがある、と判断しています(最高裁昭和49年3月22日判決)。
これは、被害者の救済という観点から重要な意味を持ちます。中学生など責任能力のある子どもは、通常、自分で賠償できるだけの財産を持っていません。そこで、本人への請求に加えて、親の監督のあり方に問題があったといえる場合には、親自身の責任を問う道が残されているのです。ただし、どのような場合に親の監督義務違反と損害との因果関係が認められるかは、事案ごとの個別判断となります。
5. 学校・自治体の責任は「別枠」で問える

ここまでは、加害児童とその親という「加害者側」への請求を見てきました。しかし、いじめの被害においては、これとは別に、学校や自治体の責任を問える場合があります。公立学校であれば、教職員がいじめを認識しながら適切な対応を怠った場合などに、国家賠償法1条1項に基づき自治体が責任を負うことがあります。私立学校であれば、在学契約上の安全配慮義務違反として学校法人が責任を負うことがあります。
つまり、被害を受けた子どもと家族は、①加害児童本人、②その親(監督者責任または親自身の不法行為責任)、③学校・自治体(国家賠償・安全配慮義務違反)という複数の相手に対し、それぞれの根拠に基づいて責任を追及できる可能性があります。誰にどこまで請求できるかは事案により異なりますので、証拠を整理したうえで、専門家とともに方針を検討することが大切です。
| 請求を検討する際に整理したいこと ・加害児童の年齢・学年(責任能力の見立て) ・加害行為の内容・期間・悪質性を裏づける証拠 ・学校がいつ何を認識し、どう対応したか(対応の経緯の記録) |
6. 時効に注意

いじめによる損害賠償請求には、時効の問題があります。不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者側が損害および加害者を知ったときから3年(生命・身体を害する不法行為の場合は5年)で時効にかかります(民法724条・724条の2)。
時間が経つほど、証拠は失われ、関係者の記憶も薄れていきます。いじめの立証は、こうした証拠の積み重ねにかかっていますので、時効の有無にかかわらず、できるだけ早い段階で相談し、証拠を保全しておくことが、結果を大きく左右します。
7. 示談・和解を持ちかけられたときの注意点

加害者側から、早い段階で示談や和解を持ちかけられることがあります。謝罪と一定の金銭で早期に解決したいという申し出は、一見ありがたいものに思えるかもしれません。しかし、被害の全体像や後遺症の有無がまだ明らかでない段階で示談に応じてしまうと、後から新たな被害や症状が判明しても、追加の請求ができなくなってしまうおそれがあります。示談書には「今後一切の請求をしない」といった条項が入っていることが多いためです。
特に、いじめによる心身への影響は、時間が経ってから顕在化することもあります。示談の金額が被害の実態に見合っているか、条項の内容が不利になっていないかは、慎重に確認する必要があります。提示された金額や条件をそのまま受け入れる前に、一度専門家に内容を確認してもらうことをおすすめします。急いで結論を出す必要はありません。
| 示談の前に確認したいこと ・被害の全体像・後遺症の有無が明らかになっているか ・金額が被害の実態に見合っているか ・『今後一切請求しない』等の条項で不利になっていないか |
8. まとめ――「誰に」「どの根拠で」請求できるかを見極める

いじめ加害者が子どもの場合、賠償を求める相手と法律上の根拠は、加害児童の年齢(責任能力の有無)によって変わります。責任能力のない子どもなら親などの監督義務者へ、責任能力のある子どもなら本人へ、そして事案によっては親自身へ、さらに学校・自治体へと、複数の道筋があります。「子どものしたことだから」と諦める必要はありません。お子さんが受けた被害に対して、どのような請求が可能かを見極めるために、一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください。
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【出典・参照条文】
- 民法第709条(不法行為)・第712条(責任能力)・第714条(監督義務者等の責任)・第724条・第724条の2(消滅時効)/最高裁昭和49年3月22日判決(責任能力ある未成年者の親の不法行為責任)
- いじめ防止対策推進法/国家賠償法第1条第1項(学校・自治体の責任に関する参考)
- (注)責任能力の有無や賠償の可否は、加害行為の内容や子どもの発達の程度等により個別に判断されます。実際の請求にあたっては専門家にご相談ください。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
学校・いじめ
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。






