「学校事故」とは何か 基本調査・詳細調査の流れと、保護者が知っておきたいこと――被害者側の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
部活動中の熱中症、プールでの飛び込み、体育の授業中の落下――学校の管理下で起きるこうした事故を「学校事故」といいます。いじめが加害行為の問題であるのに対し、学校事故は安全管理の問題ですが、いずれも子どもの生命・身体が損なわれ、学校の対応が問われる点は共通します。文部科学省の「学校事故対応に関する指針」(令和6年3月改訂版)は、事故後に「基本調査」「詳細調査」を行う枠組みと、被害児童生徒等の保護者への支援を定めています。本記事では、この枠組みと、保護者が知っておきたいポイントを解説します。

1. 「学校事故」とはどのようなものか

1. 「学校事故」とはどのようなものか

学校事故とは、学校の管理下(登下校中を含みます)で発生した、児童生徒等の生命や身体に関わる事故のことをいいます。文部科学省が公表している重大事故の事例を見ると、その多様さがわかります。中学校ハンドボール部や高校サッカー部、駅伝練習中、小学校の校外学習での熱中症事故。小学校・中学校のプールでの飛び込み事故。体育授業中の跳び箱からの落下事故やゴールポストの転倒事故。高校のハンマー投げ事故、柔道部活動中の事故、春山安全登山講習会での雪崩事故、清掃活動中の転倒事故など、部活動・授業・行事・清掃といった、学校生活のあらゆる場面で重大な事故が起きています。

いじめが「加害行為」の問題であるのに対し、学校事故は主に「安全管理」の問題です。しかし、子どもの生命・身体が損なわれ、学校がどう対応したのかが厳しく問われるという点では共通しています。そして、事故後の学校の対応いかんによって、被害を受けた家族がさらに苦しむことになりかねない点も同じです。

この記事のポイント
・学校事故には「基本調査」「詳細調査」という二段階の調査の枠組みがある。
・調査は責任追及ではなく、事実の解明と再発防止のために行われる。
・保護者には、経過説明を受け、調査への意向を確認される立場が保障されている。

2. 調査は「責任追及」のためではない

2. 調査は「責任追及」のためではない

文部科学省の「学校事故対応に関する指針」(令和6年3月改訂版)は、調査の目的について明確に述べています。基本調査・詳細調査は、日頃の安全管理の在り方など事故の原因と考えられることを広く集めて検証し、今後の事故防止に生かすために実施するものであり、民事・刑事上の責任追及や訴訟等への対応を直接の目的とするものではないとされています。同時に、被害児童生徒等の保護者や児童生徒等の「事実に向き合いたい」という希望に応える役割も併せて担うものだ、とも述べられています。

この位置づけは、保護者にとって重要な意味を持ちます。調査は責任追及の場ではないからこそ、関係者が率直に話しやすくなり、事実が明らかになりやすい面があります。他方で、調査の結果として明らかになった事実は、後に法的責任を検討する際の重要な資料にもなります。目的が違うからといって、調査結果が意味を持たないわけではないのです。

指針が掲げる調査の目標は、①事故の兆候(ヒヤリハットを含む)なども含め当該事故に関係のある事実を可能な限り明らかにする、②事故当日の過程を可能な限り明らかにする、③これらを踏まえ今後の再発防止への課題を考え、学校での事故防止の取組の在り方を見直す、という三点です。

3. 「基本調査」――まず学校が、速やかに

3. 「基本調査」――まず学校が、速やかに

基本調査とは、事案の発生後、速やかに着手する調査で、その時点の情報および調査期間中に得られた情報を迅速に整理するものです。初期対応時に最も情報を把握しやすいと考えられる学校が、原則として実施主体となり、学校の設置者の指導・支援のもとで実施します。

対象となる事故内容
死亡事故学校の管理下(登下校中を含む)で発生した全ての死亡事故について基本調査を行うことが基本
重篤な事故治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う場合等。保護者の意向も踏まえ、特別な事情がない場合は実施することを前提に判断(意識不明、身体の欠損・機能喪失を伴う事故等を含む)

基本調査では、関係する全教職員からの聴き取りを、原則として3日以内を目途に実施することとされています。事故現場に居合わせた児童生徒等への聴き取りを行う場合には、児童生徒等・保護者の理解・協力と心のケア体制が整っていることが前提とされ、事前に保護者に連絡して理解・協力を依頼し、保護者と連携してケア体制を整えることが求められます。

聴き取りの際に説明されるべきこと(指針より)
・記憶していることをできるだけ正確に思い出して話してほしいこと
・人の記憶はあいまいで、記憶違いのこともあること
・一人の記憶に頼らず、他の人の話などから総合的に判断してまとめること
・「誰が何を言った」がそのまま外部に出ることはないこと
・録音する場合、録音データは記録作成のみに使用すること

4. 保護者への説明――「1週間以内」が目安

4. 保護者への説明――「1週間以内」が目安

指針は、基本調査における被害児童生徒等の保護者との関わりについても、具体的に定めています。まず、事故発生(認知)直後から無理に状況確認をするのではなく、保護者の心情に配慮した態度で接触し、今後の接触を可能とするような関係性を構築することが求められます。

そして、取りまとめられた基本調査の経過および整理した情報等について、適切に保護者に説明するとされ、最初の説明は、調査着手からできるだけ1週間以内を目安に行うとされています。この時点で得られている情報は断片的である可能性があり、断定的な説明はできないことに留意する、とも書かれています。

さらに、説明に矛盾が生じないよう全教職員で情報を共有したうえで、原則として保護者への説明窓口は一本化すること、正確な情報の伝達を心がけ、誤りがあった場合にはすぐに修正するよう心がけることが求められています。そして、今後の調査についての学校・設置者の考えを保護者に伝え、保護者の意向を確認することとされています。説明を待つだけでなく、保護者の側から意向を伝えてよい場面である、ということです。

5. 「詳細調査」――第三者による原因の解明

5. 「詳細調査」――第三者による原因の解明

詳細調査とは、基本調査等を踏まえ必要な場合に、学校事故対応の専門家などが参画した詳細調査委員会において行われる詳細な調査です。事実関係の確認のみならず、事故に至る過程を丁寧に探り、事故が発生した原因を解明するとともに、事故後に行われた対応についても確認し、再発防止策を打ち立てることを目指すものとされています。

詳細調査への移行を判断するのは、基本調査の報告を受けた学校の設置者です。指針は、原則として基本調査を行った全ての事案について詳細調査を行うことが望ましいとしたうえで、少なくとも次の場合には詳細調査に移行するとしています。

  • ア)当該学校の教育活動の中に事故の要因があると考えられる場合(事前の安全管理体制に十分でない点が認められる など)
  • イ)事故発生直後の対応の中に適切ではない点が認められる場合
  • ウ)基本調査により、事故の要因が明らかとならず再発防止策が検討できない場合
  • エ)被害児童生徒等の保護者の要望がある場合
  • オ)その他必要な場合
【重要】保護者の「要望」も、詳細調査に移行する理由になります
指針は、被害児童生徒等の保護者の要望がある場合を、詳細調査に移行すべき場合として明示しています。また、移行の判断に当たっては保護者の意向に十分配慮するとされています。納得できない点があるなら、詳細調査を求める意向を明確に伝えることが重要です。

6. 詳細調査委員会の中立性と、報告書

6. 詳細調査委員会の中立性と、報告書

詳細調査は、原因究明と再発防止のための検討を目的とするものであって責任追及や処罰を目的としたものではありませんが、事故に至る過程や原因の調査には高い専門性が求められるため、中立的な立場の外部専門家等が参画した委員会とすることが必要であり、調査の公平性・中立性を確保することが求められる、と指針は述べています。

委員の構成は、学識経験者や医師、弁護士、学校事故対応の専門家等であって、調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係または特別の利害関係を有しない者(第三者)とされ、職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図ることが求められます。委員の氏名は、特別な事情がない限り公表することが望ましいとされています。

報告書には、調査の目的及び方法、事故の概要、委員会の紹介、事故発生の経緯と対応、調査内容、事故発生の要因、事故防止への提案(提言)、調査の報告といった項目を盛り込むこととされています。そして、詳細調査委員会または学校の設置者が、調査結果について保護者に説明し、調査の経過についても適宜適切な情報提供を行うとともに、保護者の意向を確認するとされています。

7. 保護者を支える「支援担当者」

7. 保護者を支える「支援担当者」

指針の改訂で注目されるのが、保護者への支援の考え方です。指針は、被害児童生徒等の保護者に調査への協力を求める場合には信頼関係の醸成と配慮が必要であるとし、学校の設置者は、必要に応じて、保護者の心情を理解し、保護者・詳細調査委員会・学校や設置者をつなぐ役割を担う「支援担当者」を確保する、としています。

事故で子どもを失い、あるいは重い障害を負った家族が、学校や行政と直接やり取りを続けることは、心身に大きな負担を伴います。中立的な立場で橋渡しをする役割が制度として位置づけられていることは、保護者側が知っておくべき重要な点です。加えて、弁護士が代理人として関与することで、説明を求める、記録を確認する、詳細調査への移行を求めるといった対応を、負担を抑えながら確実に進めることができます。

8. まとめ――「知る」ことから始まる

8. まとめ――「知る」ことから始まる

学校事故が起きたとき、被害を受けた子どもと家族にとって最もつらいのは、何が起きたのか分からないまま時間だけが過ぎていくことです。文部科学省の指針は、基本調査から詳細調査へという枠組みと、保護者への経過説明・意向確認・支援担当者の設置といった仕組みを定めています。これらは、保護者が「知る」ための手続的な保障です。学校事故の対応に疑問を感じたとき、指針に沿った対応が行われているかを確認することが、第一歩になります。判断に迷うときは、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
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【出典・参照条文】

・文部科学省「学校事故対応に関する指針【改訂版】」(令和6年3月)5 調査の実施(基本調査・詳細調査)ほか(https://anzenkyouiku.mext.go.jp/guideline-jikotaiou/index.html
・文部科学省×学校安全「学校管理下における重大事故事例」(https://anzenkyouiku.mext.go.jp/guideline-jikotaiou/jirei.html )/「『学校事故対応に関する指針』に基づく詳細調査報告書の横断整理」(令和2年3月)
・(注)本記事は一般的な解説であり、個別事案での対応は事情により異なります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/

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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。