「共同不法行為」とは何か 複数の加害者への損害賠償をニュースから読み解く――被害者の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
いじめは、複数の加害者が関わることが少なくありません。そうした場合の損害賠償を考えるうえで鍵になるのが、民法719条の「共同不法行為」です。兵庫県相生市で中学2年の男子生徒が自死し、両親が同級生3人側に損害賠償を求めた訴訟の報道を手がかりに、共同不法行為の意味を解説します。共同不法行為が認められると、複数の加害者は連帯して損害の全額について責任を負い、「誰がどこまでやったか」が特定しきれなくても、被害者は救済を受けやすくなります。本記事では、その仕組みと、被害者側にとっての意味を、被害者の立場から解説します。

1. 複数の加害者がいるいじめと、損害賠償

1. 複数の加害者がいるいじめと、損害賠償

いじめは、一人の加害者によるものとは限りません。むしろ、複数の子どもが関わり、暴言・暴力・仲間外れ・SNSでの中傷などが折り重なって、被害を深刻化させていくことが少なくありません。こうした場合、被害を受けた側は、「誰に、どれだけの責任を問えるのか」という難しい問題に直面します。ここで重要になるのが、民法719条が定める『共同不法行為』という考え方です。

報道によれば、兵庫県相生市の市立中学校に通っていた2年生(当時)の男子生徒が令和5年3月に自死し、両親が、繰り返し受けたいじめが原因であるとして、同級生3人側に総額約8870万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。両親側は、3人の行為は共同不法行為に問えると主張しているとされます。第三者委員会は、生徒が多数のいじめを受けたと認定し、自死に至ったのはいじめが主たる原因と結論づけたと報じられています。

この記事のポイント
複数の加害者が関わるいじめでは、民法719条の『共同不法行為』が問題になる。
共同不法行為が認められると、加害者は連帯して損害の全額について責任を負う。
『誰がどこまでやったか』が特定しきれなくても、被害者は救済を受けやすくなる。

2. 「共同不法行為」とは

2. 「共同不法行為」とは

民法719条1項前段は、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うと定めています。複数の加害者が共同していじめを行い、被害を生じさせた場合、それぞれの加害者が、被害全体について責任を負うという考え方です。

ここでいう「共同」とは、加害者どうしが事前に示し合わせていた(意思の連絡があった)ことまでは必ずしも必要ではなく、客観的に見て行為が関連し合っていれば足りると解されています。同じ被害者に対して、複数の子どもが暴言や暴行、仲間外れ、SNSでの中傷などを重ねていれば、それらが客観的に関連し合った共同不法行為と評価され得るのです。

3. 「連帯して」責任を負うことの意味

3. 「連帯して」責任を負うことの意味

共同不法行為の最大の特徴は、加害者が「連帯して」責任を負う点にあります。これは、被害者にとって非常に重要な意味を持ちます。連帯責任のもとでは、被害者は、加害者の一人に対して、損害の全額を請求することができます。「あなたは3分の1しか関与していないから、3分の1しか払わない」という反論は、被害者との関係では通用しません。

たとえば、3人が共同していじめを行い、損害の全体が900万円と評価された場合、被害者は、そのうちの誰か一人に対して900万円全額を請求できます。支払った加害者は、後で他の加害者に対して、それぞれの負担割合に応じた分担を求めること(求償)ができますが、それは加害者どうしの内部の問題です。被害者は、加害者間の内部の割合を気にすることなく、確実に賠償を受けられるようになっているのです。

場面被害者にとっての意味
加害者の一人に全額請求できる資力のある加害者から確実に回収しやすい
寄与度の割合を被害者が立証しなくてよい『誰がどこまでやったか』の立証の負担が軽くなる
加害者間の分担は内部の求償で処理加害者どうしの言い分に振り回されずに済む

4. 「誰がどこまで」が分からなくても救済されやすい

4. 「誰がどこまで」が分からなくても救済されやすい

民法719条1項後段は、共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、各自が連帯して責任を負うとしています。複数の加害者が関わったために、どの行為がどの損害をもたらしたのかを特定しきれない場合であっても、被害者が救済を受けられるようにするための規定です。

いじめの被害では、まさにこの「誰の、どの行為が、どこまで被害に影響したのか」を厳密に切り分けることが困難な場面が数多くあります。暴言・暴行・仲間外れ・SNSでの中傷などが複合し、積み重なって被害者を追い詰めていくからです。共同不法行為の考え方は、こうした場合でも、加害者らが一体として被害全体に責任を負うことで、被害者の救済を可能にするものです。相生市の事案で両親側が『共同不法行為に問える』と主張しているのも、こうした枠組みを踏まえたものと考えられます。

【補足】学校・自治体の責任は別枠で問える
共同不法行為は、加害者(同級生とその保護者)への責任追及の枠組みです。これとは別に、学校がいじめを認識しながら適切に対応しなかった場合などには、公立校であれば国家賠償法により自治体が、私立校であれば安全配慮義務違反により学校法人が、責任を負うことがあります。

5. 立証のために――証拠の保全が鍵

5. 立証のために――証拠の保全が鍵

共同不法行為を主張するためには、複数の加害者による行為があったこと、それらが被害を生じさせたことを、証拠によって示す必要があります。暴言・中傷はLINEやSNSの記録を、暴力は診断書や写真を、被害の経過は日記や相談の記録を、できるだけ早く保全することが重要です。相生市の事案では、学校が実施したアンケートで被害生徒がいじめ被害を訴えていたのに校内で情報共有されていなかったことを、第三者委員会が『大きなミス』と批判したと報じられています。学校の調査や第三者委員会の報告書も、事実関係を明らかにする重要な資料になります。

誰に対して、どの根拠で、どこまで請求するのか。複数の加害者が関わるいじめの損害賠償は、法的な整理が複雑になりがちです。だからこそ、証拠を整理し、見通しを立てるうえで、早い段階から専門家のサポートを得ることが、結果を大きく左右します。

6. 加害者の親の責任と、賠償の実効性

6. 加害者の親の責任と、賠償の実効性

共同不法行為が問題になる場面では、加害者が未成年の子どもであることが通常です。その場合、加害児童本人だけでなく、その親(監督義務者)の責任も問題になります。加害児童に責任能力がない場合(おおむね11〜12歳未満が目安)は、親が民法714条により監督者責任を負うのが原則です。責任能力がある場合(中学生以上が典型)でも、親の監督義務違反と損害との因果関係が認められれば、親自身が民法709条の責任を負うことがあります。

この点が実務上重要なのは、未成年の加害者本人には、通常、賠償に応じるだけの財産がないからです。共同不法行為による連帯責任と、親への責任追及を組み合わせることで、被害者側は、賠償の実効性を確保しやすくなります。誰に、どの根拠で請求すれば、実際に賠償を受けられるのか――この見通しを立てることが、複数の加害者が関わるいじめの損害賠償では特に重要になります。

請求先を検討する際の視点
・各加害児童の年齢・責任能力の見立て
・親(監督義務者)への請求の可否(民法714条・709条)
・学校・自治体への請求(国家賠償・安全配慮義務違反)

なお、加害者が複数いる場合でも、被害者側は必ずしも全員をまとめて訴えなければならないわけではありません。資力や関与の程度などを踏まえ、誰に対してどのように請求するかを戦略的に選ぶこともできます。連帯責任という枠組みは、被害者にこうした選択の幅を与えるものでもあります。どの進め方が最も確実に救済につながるかは、事案の事情によって変わりますので、専門家と相談しながら方針を定めることをおすすめします。

7. まとめ――「みんなでやった」を、責任の空白にしない

7. まとめ――「みんなでやった」を、責任の空白にしない

複数の加害者が関わるいじめでは、「みんなでやったことだから、誰の責任か分からない」という空気が、責任の空白を生み出してしまいがちです。しかし、民法719条の共同不法行為は、まさにそうした空白を許さず、加害者らが一体として被害全体に責任を負うことを定めています。被害を受けた方が、加害者の内部の言い分に振り回されることなく、正当な賠償を受けられるようにするための仕組みです。複数の加害者によるいじめの被害にお悩みなら、一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
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【出典・参照条文】

  • 朝日新聞デジタル(兵庫県相生市の中学生の自死をめぐる損害賠償請求訴訟に関する報道。神戸地裁姫路支部で審理開始)(参照:https://www.asahi.com/articles/ASV5N0GPBV5NPIHB001M.html
  • 民法第719条(共同不法行為者の責任)・第709条(不法行為)/いじめ防止対策推進法/国家賠償法第1条第1項(学校・自治体の責任に関する参考)
  • (注)本記事は自死という繊細なテーマに触れています。つらい気持ちを抱えている場合は、24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)などの相談窓口に、どうか一人で抱え込まずご相談ください。個別事案の判断は事情により異なります。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。