学校との話合いに行き詰まったら――「民事調停」という選択肢 訴訟の前に、第三者を交えて話し合う手続――被害児童生徒の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
学校と何度話し合っても平行線――そんなとき、いきなり訴訟を起こす以外にも道があります。その一つが、裁判所で行う「民事調停」です。滋賀県の私立中学校でいじめの重大事態と認定された事案では、調査報告書の内容をめぐって折り合わず、被害生徒側が学校法人と加害生徒を相手取り、再調査や謝罪などを求める民事調停を申し立てたと報じられました。本記事では、調停とはどのような手続なのか、いじめ問題でどう活用できるのか、そして調査報告書の記載に納得できないときにとりうる手続を、被害児童生徒の立場から解説します。

1. 「校長らと話し合ってきたが、無理だと思った」

いじめの被害を受けた子どもと家族が、学校との話合いに疲れ果ててしまうことがあります。何度面談を重ねても、求めている説明が得られない。事実認定に納得できない。かといって、いきなり裁判を起こすのは重すぎる気がする――そうした行き詰まりは、決して珍しいことではありません。

2026年7月に報じられた滋賀県の私立中学校の事案では、学校側がいじめ防止対策推進法に基づく重大事態と認定し、第三者委員会が複数のいじめ行為を認定する報告書をまとめました。しかし報道によれば、被害を受けた男子生徒側は、第三者委員会から説明された内容と、学校側から受け取った報告書の内容が違うと主張し、家庭環境などについて事実に反する記載があるとして訂正を求めてきたものの折り合わず、学校法人と加害生徒を相手取り、再調査や謝罪などを求める民事調停を簡易裁判所に申し立てたとされます。母親は記者会見で、校長らと話し合いを続けてきたが無理だと思った、調停で設置者である学校法人と話し合いをしたい、と述べたと報じられています。

この事案が示すこと
・学校との直接交渉が行き詰まったとき、調停という選択肢がある。
・調停の相手方は、学校(校長)ではなく設置者(学校法人)にできる。
・報告書の記載内容に納得できない場合、訂正や再調査を求める道がある。

2. 「民事調停」とはどのような手続か

2. 「民事調停」とはどのような手続か

民事調停は、簡易裁判所などで行われる、裁判官と調停委員が間に入って当事者の話合いによる解決を目指す手続です。判決で白黒をつける訴訟とは異なり、あくまで話合いによる合意を目指します。

調停の大きな特徴は、金銭の支払いに限られない、柔軟な解決ができる点にあります。訴訟では基本的に「いくら支払え」という金銭的な結論になりますが、調停であれば、謝罪、再調査の実施、報告書の訂正、今後の対応の取り決めなど、被害者側が本当に求めているものを話合いのテーブルに載せることができます。冒頭の事案で、被害生徒側が「再調査」「謝罪」「改ざん前の報告書の提出」を求めているとされるのは、まさに調停の柔軟性を活かした申立てといえます。

 民事調停訴訟
進め方話合いによる合意を目指す判決で白黒をつける
解決の内容謝罪・再調査など金銭以外も可能基本的に金銭的な解決
公開/非公開非公開公開が原則
費用訴訟より低額の申立手数料紛争額に応じた印紙代が高額化しやすい
結論の強制力合意できなければ不成立判決が出れば従う必要がある

調停で合意が成立すると、その内容は調停調書に記載され、確定判決と同じ効力を持ちます。他方、合意に至らなければ調停は不成立となり、その場合はあらためて訴訟を検討することになります。「話合いで解決できる可能性があるなら、まず試してみる」という位置づけの手続です。

3. いじめ問題で調停を使うメリット

3. いじめ問題で調停を使うメリット
  • 非公開の手続なので、子どものプライバシーに配慮しながら進められる。
  • 謝罪・再調査・報告書の訂正など、金銭に限らない解決を求められる。
  • 裁判官・調停委員という第三者が間に入るため、当事者だけの話合いより冷静に進みやすい。
  • 学校(校長)ではなく設置者(学校法人・自治体)を相手方にでき、決定権を持つ相手と直接話せる。
  • 訴訟に比べて手続が簡易で、費用も抑えられることが多い。
【重要】相手方は「設置者」にできます
学校の現場(校長・教頭)と話しても決まらないことがあります。私立であれば学校法人、公立であれば自治体(教育委員会を所管する地方公共団体)が、法的な責任主体であり、最終的な決定権を持ちます。調停では、この設置者を相手方として、責任ある立場の相手と話し合うことができます。

4. 調査報告書の記載に納得できないとき

4. 調査報告書の記載に納得できないとき

冒頭の事案の核心は、報告書の記載内容をめぐる対立でした。第三者委員会から説明された内容と、受け取った報告書の内容が違う。事実に反する記載がある。こうした場合、被害者側には、国のガイドラインに基づく複数の手続的な保障が用意されています。

◆ ① 報告書を取りまとめる前の「記載の確認」

国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)は、聴き取った内容を調査報告書にまとめる際、事実関係の認定に係る部分等について「この記載で相違ないか」という視点で、報告書を取りまとめる前に被害児童生徒・保護者に確認をとることを想定しています。事実と異なる記載があれば、この段階で修正を求めることが最も効果的です。

◆ ② 「追加調査」の要望

同ガイドラインおよび「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」(令和7年12月改訂)は、提示された報告書について、事前に確認した調査事項に調査漏れがある場合や、説明と報告書の内容が異なるなど新たに調査すべき事項が出てきた場合には、被害者側の意向を確認したうえで、調査主体の判断により追加調査を行うことが望ましいとしています。

◆ ③ 「所見」を報告書に添えて提出する

調査結果の説明を受けても納得がいかない場合、被害児童生徒や保護者は、自らの所見(意見や事実誤認の指摘等)をまとめた文書を、調査結果の報告書に添えて地方公共団体の長等に提出することができます(国の「いじめの防止等のための基本的な方針」、ガイドライン第9章)。報告書の内容に一方的に納得させられるのではなく、自分たちの言い分を記録として残せる仕組みです。

◆ ④ 「再調査」を求める

いじめ防止対策推進法第29条第2項・第30条第2項等は、報告を受けた地方公共団体の長等が、必要と認めるときに再調査を行うことができると定めています。事前に確認した調査事項について十分な調査が尽くされていない場合などが、その典型です。私立学校の場合は、所轄庁(都道府県の私学担当部局)との関係が問題になります。

5. 調停を検討するときの注意点

5. 調停を検討するときの注意点

調停は万能ではありません。あくまで話合いの手続ですので、相手方が応じる姿勢を示さなければ、合意には至りません。相手方が出席しない、あるいは主張が真っ向から対立して歩み寄りの余地がない場合には、調停は不成立となり、訴訟を検討することになります。その意味で、調停は「解決までの一つの段階」と位置づけて臨むのが現実的です。

また、調停の場で何をどこまで求めるのか、どのような合意なら受け入れられるのかを、あらかじめ整理しておくことが重要です。感情的な対立が先行すると、せっかくの話合いの機会が活かされません。

ところで、特に裁判所の民事調停では、残念ながら、いじめや学校問題に専門性を有する調停委員や裁判官が担当してくれるとは必ずしも限りません。その意味で当たりはずれがあると言われることがあります。そのため、法の仕組みを含め調停委員に対して状況を正確に伝えることは必要不可欠であり、申立書の記載や、期日での主張の組み立てには法的な整理が必要ですので、弁護士のサポートを得ながら進めることを強くおすすめします。

調停に臨む前に整理したいこと
・何を最も求めているのか(謝罪・再調査・訂正・賠償など)の優先順位
・どのような合意なら受け入れられるかの線引き
・報告書のどの記載が、どの資料と食い違っているのかの具体的な指摘

6. まとめ――「訴訟か、泣き寝入りか」ではない

6. まとめ――「訴訟か、泣き寝入りか」ではない

学校との話合いが行き詰まったとき、選択肢は「訴訟を起こす」か「諦める」かの二つだけではありません。調停は、非公開の場で、第三者を交えて、金銭以外の解決も含めて話し合える手続です。そして、調査報告書の記載に納得できないときには、記載の確認、追加調査、所見の添付、再調査という手続的な保障が、国のガイドラインと法律によって用意されています。どの手段が最も適しているかは、事案の状況によって変わります。学校との話合いに疲れを感じているなら、一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずは弁護士法人グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典・参照条文】

・報道(滋賀県の私立中学校のいじめ重大事態をめぐり、被害生徒側が学校法人と加害生徒を相手取り民事調停を申し立てたとの報道。2026年7月)(参照:https://news.yahoo.co.jp/articles/030445f7d31b1da965705eff99a3b61bdbe9216c
・民事調停法/いじめ防止対策推進法第28条・第29条第2項・第30条第2項
・文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)第8章第2節・第9章第1節・第12章第1節/「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)第2の4/「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」(令和7年12月改訂)第5章
・(注)本記事は一般的な解説であり、個別事案での手続の選択は事情により異なります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/

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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。