調査報告書が出るまで4年――重大事態の調査が長期化するとき 「報告書をもって気持ちの整理をつけたい」という訴えから考える――被害児童生徒の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
いじめの重大事態調査は、被害を受けた子どもが前に進むための手続です。ところが東京都小平市では、小学校で「ばい菌」扱いされるなどのいじめを受けて不登校になった女子児童について、重大事態の報告から4年が経過しても報告書が公表されていませんでした。児童は中学進学後、対策委員会に「前に進むためには報告書が大切」と手紙を送っていたと報じられています。本記事では、調査が長期化することの何が問題なのか、被害者側にどのような手続的保障があるのかを、被害児童生徒の立場から解説します。

1. 「報告書をもって気持ちの整理をつけたい」

1. 「報告書をもって気持ちの整理をつけたい」

いじめの重大事態調査は、何のために行われるのでしょうか。処分のためでも、責任追及のためだけでもありません。何より、被害を受けた子どもと家族が、何が起きたのかを知り、傷ついた心を整理し、前に進むための手続です。だからこそ、その結論が長く出ないことは、それ自体が被害者を苦しめ続けることになります。

2026年8月に報じられた東京都小平市の事案は、そのことを痛切に示しています。報道によれば、小平市立小学校で2021年度に高学年だった女子児童が、周囲から「ばい菌」扱いされるなどのいじめを受けて不登校になり、いじめ重大事態と認定されました。2022年3月に市長に重大事態の報告があり、学識経験者らで構成する市教育委員会のいじめ問題対策委員会が調査を行いました。

しかし、報道によれば、この児童は中学に進学した後の2024年6月、対策委員会に宛てて手紙を送り、「前に進むためには報告書が大切。報告書をもって気持ちの整理をつけたい」と訴えたとされます。それでも、重大事態の報告から4年が経過しても、報告書は公表されていませんでした。

その後、2026年8月26日に調査報告書が公表され、対策委員会は、学校側が「いじめ重大事態」として扱うことが遅れたことや、被害児童・保護者が学校に対して求めていることを的確に捉えられていなかったことなどを指摘したと報じられています。報告書は「いじめ問題を解決するという認識が不十分」だったとし、再発防止策として児童への指導の徹底や教員研修の定期実施などを挙げているとされます。市教育委員会は、指摘された提言を真摯に受け止め、学校と連携しながら再発防止の取り組みを行う、としています。

この事案が示すこと
・重大事態として「扱う」こと自体が遅れると、その後のすべてが遅れる。
・調査の長期化は、被害を受けた子どもの回復を妨げ続ける。
・被害を受けた子ども自身が、報告書を「前に進むために必要なもの」と捉えている。

2. 「ばい菌」扱いも、明確ないじめです

2. 「ばい菌」扱いも、明確ないじめです

「ばい菌」と呼ぶ、触れたものを避ける、仲間外れにする――こうした行為は、殴る蹴るといった目に見える暴力に比べ、「子ども同士のふざけ」として軽く扱われがちです。しかし、これは人格そのものを否定し、集団から排除する行為であり、被害を受けた子どもの尊厳を深く傷つけます。

いじめ防止対策推進法第2条第1項は、いじめを、一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。行為の激しさや加害者の意図ではなく、被害を受けた子どもが苦痛を感じているかどうかが出発点です。「ばい菌」扱いや仲間外れは、当然にこの定義に当てはまり得ます。

国の「いじめの防止等のための基本的な方針」も、いじめに当たるか否かの判断は表面的・形式的に行うのではなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行う必要があると明記しています。「そんなつもりはなかった」「遊びの延長だった」という加害側の説明で、被害が打ち消されることはありません。

3. 「重大事態として扱う」ことが遅れる問題

3. 「重大事態として扱う」ことが遅れる問題

小平市の報告書が指摘したのは、まず「重大事態として扱うことが遅れた」という点でした。これは、いじめ対応で繰り返し問題になる論点です。

いじめ防止対策推進法第28条第1項は、いじめにより児童生徒の生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがあるとき、または相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるときに、学校設置者または学校が調査を行う義務を負うと定めています。重要なのは、いずれも「疑い」の段階で足りるという点です。事実関係が確定してから動くのでは遅すぎるのです。

さらに、国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)は、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあったときは、その時点で学校が「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たることを求めています。被害者側の申立ては学校が知り得ない重要な情報であり、調査をしないまま「重大事態ではない」と断言することは許されないとされています。

【重要】認定が遅れると、すべてが遅れます
重大事態として認定されて初めて、調査組織が設けられ、事実関係の解明と被害者への支援が本格的に始まります。認定が遅れれば、その間、被害を受けた子どもは支援もないまま放置されることになります。「認定の遅れ」は手続上の些細な問題ではなく、子どもの回復の機会を奪う実質的な問題なのです。

4. 調査の長期化――全国的にはどうなのか

4. 調査の長期化――全国的にはどうなのか

では、重大事態の調査はどのくらいの期間で終わるのが通常なのでしょうか。文部科学省の「いじめ防止対策協議会」による調査報告書150件の分析(2024年3月公表)では、1年以内に報告書が取りまとめられたケースが全体の約7割を占め、2年以上を要した事例は約1割強にとどまるとされています。

この数字に照らせば、重大事態の報告から4年という期間は、明らかに長期化した部類に入ります。小平市については、報告書の作成に長期間を要する状況が続き、3年以上経っても結論に達していないケースもあると報じられており、被害児童の複数の保護者が市教育委員会と第三者委員会の対応に不安と不信感を募らせているとも伝えられています。

調査に要した期間全体に占める割合(文科省による150件の分析)
1年以内約7割
2年以上約1割強

もちろん、事案によっては丁寧な調査に相応の時間を要することもあります。関係者が多い、記録が乏しい、被害者側の意向を確認しながら慎重に進める必要がある――こうした事情は当然あり得ます。問題は、その進行状況が被害者側に共有されないまま、ただ時間だけが過ぎていくことです。

5. 長期化がもたらす、具体的な不利益

5. 長期化がもたらす、具体的な不利益

調査の長期化は、被害を受けた子どもと家族に、次のような具体的な不利益をもたらします。

  • 在学中に解決しない――小平市の事案でも、児童は中学に進学した後も報告書を待ち続けていました。学校生活を取り戻す機会そのものが失われます。
  • 記憶が薄れ、証拠が失われる――時間が経つほど、関係児童の記憶は不確かになり、記録も散逸します。事実の解明そのものが困難になります。
  • 心の整理がつかない――「何があったのか」が公式に確定しないまま、被害者は宙づりの状態に置かれ続けます。
  • 損害賠償請求の時効の問題――法的な請求を検討する場合、時効の進行も意識せざるを得ません。
  • 「風化させようとしているのでは」という不信――対応の遅れそのものが、学校・行政への信頼を決定的に損ないます。

小平市の児童が「前に進むためには報告書が大切」と手紙で訴えたことは、この構造を端的に示しています。報告書は単なる文書ではなく、被害を受けた子どもが次の一歩を踏み出すための、区切りそのものなのです。

6. 被害者側がとりうる手続

6. 被害者側がとりうる手続

調査が長引いていると感じるとき、被害者側は何ができるのでしょうか。国のガイドラインと法律は、いくつかの手続的な保障を用意しています。

◆ ① 調査中の経過報告を求める

国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)は、重大事態の調査が長期間を要する場合があり、被害者側は進捗状況に高い関心を持っているため、これに応えることが調査主体の重要な役割であるとしています。そして、被害者側と丁寧に連絡を取り合い、定期的かつ適時のタイミングで経過報告を行うことが求められています。「調査中だから何も言えない」と長期間放置することは、ガイドラインの趣旨に反します。

◆ ② 調査結果の提供・説明を求める

いじめ防止対策推進法第28条第2項は、調査を行ったときは、いじめを受けた児童生徒及びその保護者に対し、重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供する義務があると定めています。同ガイドラインは、調査結果の説明方法として、調査報告書本体またはその概要版資料を提示・提供し、口頭で説明する方法が考えられるとし、いたずらに個人情報保護を盾に説明を怠るようなことがあってはならないと戒めています。

◆ ③ 所見書を提出する・再調査を求める

報告書の内容に納得できない場合には、自らの所見をまとめた文書を報告書に添えて地方公共団体の長等に提出することができます。また、いじめ防止対策推進法第29条第2項・第30条第2項等は、報告を受けた地方公共団体の長等が必要と認めるときに再調査を行うことができると定めています。

調査が長引いているときに確認したいこと
・定期的な経過報告を受けているか。受けていないなら、書面で求める。
・調査の見通し(今後の予定・想定される時期)が示されているか。
・要望や質問に対して、回答が得られているか。
・やり取りの日付と内容を、こちらでも記録に残しているか。

7. 弁護士に相談することで変わること

7. 弁護士に相談することで変わること

調査の長期化に悩む被害者側にとって、弁護士が関与する意味は小さくありません。個人として要望を伝えても後回しにされてしまう場面でも、代理人からの書面による申入れであれば、対応が記録に残る形で進み、学校・教育委員会の姿勢が変わることがあります。

  • 経過報告や調査結果の提供を、法とガイドラインの根拠を示して正式に求められる。
  • 調査の進め方や第三者性が適切かを、法的観点からチェックできる。
  • 報告書の記載に疑義があるとき、記載の確認・追加調査・所見書の提出・再調査の要求といった手続を的確に選べる。
  • 調査と並行して、損害賠償請求の可否と時効の見通しを検討できる。
  • 傷ついた子どもを、学校や行政と直接対峙させずに済む。

8. まとめ――「待たせること」も、被害を長引かせる

8. まとめ――「待たせること」も、被害を長引かせる

いじめの調査で最も大切なのは、丁寧さと正確さです。しかし、丁寧であることと、いつまでも結論が出ないこととは違います。被害を受けた子どもには、成長していく時間があります。小学校で被害を受けた子が中学生になり、それでもまだ報告書を待っている――そうした状況は、子どもの大切な時間を奪い続けることにほかなりません。

「前に進むためには報告書が大切」。小平市の児童が対策委員会に宛てた言葉は、調査に関わるすべての大人が受け止めるべきものです。調査の進行に不安を感じたら、「待つしかない」と諦めず、経過報告を求め、記録を残してください。そして判断に迷うときは、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。お子さんが区切りをつけ、前を向けるようにするために、私たちが力を尽くします。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典・参照条文】

  • 共同通信/Yahoo!ニュース「ばい菌扱い、いじめ重大事態認定 東京・小平市立小、対応遅れ指摘」2026年8月25日配信(https://news.yahoo.co.jp/articles/f71ca0cc3599748a710d62d1a2a104898bbdb853
  • テレビ朝日系(ANN)・TBS NEWS DIG ほか(小平市教育委員会いじめ問題対策委員会による調査報告書の公表に関する2026年8月26日の各種報道)
  • 文部科学省 いじめ防止対策協議会による調査報告書150件の分析(2024年3月公表)に関する報道
  • いじめ防止対策推進法第2条・第28条・第29条第2項・第30条第2項/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)第4章・第8章・第9章/「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)
  • (注)本記事は繊細なテーマに触れています。つらい気持ちを抱えている場合は、24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)などの相談窓口や専門の医療機関にご相談ください。
  • 掲載サイト:https://www.g-ijime.com/
ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。