
| 【この記事のポイント】 いじめは、加害者と被害者だけの問題ではありません。長野県の県立高校では、生徒総会で1年生の生徒会長が上級生らから責め立てられ、PTSDと診断されて不登校になった事案を、県教育委員会がいじめと認定しました。報告書は、直接質問しなくても笑ったり、はやし立てたりした生徒を「いじめの観衆」と位置づけ、学校の指導不足を批判しています。本記事では、いじめの『四層構造』(被害者・加害者・観衆・傍観者)という考え方と、集団全体の問題としていじめを捉える視点を、被害児童生徒の立場から解説します。 |
1. 「みんなの前で」傷つけられるということ

大勢の人が見ている場で、責め立てられ、笑われる――それは、当事者にとって、二人きりの場面とは比べものにならない深い屈辱と恐怖をもたらします。逃げ場がなく、味方が一人もいないように感じられ、「自分には居場所がない」という絶望に直結するからです。
2026年6月に報じられた長野県の県立高校の事案では、当時1年生だった生徒会長の女子生徒が、前生徒会役員の上級生らから全校生徒の前で責め立てられたと訴え、不登校になっていたことが分かりました。報道によれば、女子生徒は前年9月の生徒会長選挙に立候補して会長に選ばれ、同年11月、全校生徒や教員が出席する生徒総会に初めて臨みました。約1時間20分にわたって責め立てるような質問を浴びせ続けられるなどし、翌日から不登校になり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されて長期間の欠席を余儀なくされているとされます。県教育委員会は、6月19日付の報告書で、この事案をいじめと認定しました。
| この事案が示すこと ・「学校行事」「公の場」での集団的な責め立ても、いじめに当たり得る。 ・直接手を下していなくても、はやし立て ・笑いは『観衆』としていじめに加担する行為になり得る。 ・PTSDの発症・長期欠席は、いじめ防止法上の『重大事態』に該当し得る。 |
2. いじめの「四層構造」――誰もが当事者になり得る

国の「いじめの防止等のための基本的な方針」は、いじめを、加害者と被害者だけの問題として捉えていません。いじめは、①いじめを受けた児童生徒、②いじめを行った児童生徒に加え、③はやし立てたり面白がったりする「観衆」、④見て見ぬふりをして暗黙の了解を与える「傍観者」という『四層構造』で構成されるという考え方が、国によって示されています。
この考え方の核心は、いじめを「二人の間のトラブル」に矮小化せず、集団全体の問題として捉えるところにあります。学校は、加害・被害の二者関係だけでなく、観衆や傍観者の存在にも注意を払い、集団全体に「いじめを許容しない雰囲気」を形成する義務があるとされています。特に、はやし立てたり笑ったりして同調していた児童生徒に対しては、それらの行為がいじめに加担する行為であることを明確に理解させる指導を行うことが、基本方針で強く求められています。
| 層 | 立場 | 学校に求められる対応 |
| ①被害者 | いじめを受けた児童生徒 | 安全・安心の回復を最優先に、寄り添った支援を行う |
| ②加害者 | いじめを行った児童生徒 | 行為の責任を理解させ、再発防止に向けた指導を行う |
| ③観衆 | はやし立て・面白がる児童生徒 | 同調がいじめへの加担であることを理解させる指導を行う |
| ④傍観者 | 見て見ぬふりをする児童生徒 | 止める・知らせる行動の大切さを伝え、許容しない雰囲気を育てる |
長野の事案で県教委が、直接質問していなくても笑ったり、はやし立てたりした生徒を「いじめの観衆」と認定し、「総会の雰囲気を作った当事者」として学校が指導を行うべきだったと指摘したのは、まさにこの四層構造の考え方に沿ったものです。
3. なぜ「いじめの定義」は被害者を守るのか

いじめ防止対策推進法第2条第1項は、いじめを、一定の人的関係にある他の児童等による心理的・物理的な影響を与える行為であって、「対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。行為の形式や加害者の意図ではなく、被害を受けた子どもが心身の苦痛を感じているかどうかが出発点です。
「質問しただけ」「議論の一環」といった説明で、被害が軽く扱われてはなりません。それが当事者にとって、全校の前で責め立てられ、尊厳を傷つけられる体験であったなら、いじめとして正面から受け止められるべきです。基本方針も、いじめに当たるか否かは表面的・形式的に判断せず、いじめられた児童生徒の立場に立って判断する必要があると明記しています。
| 【重要】PTSD・不登校は「重大事態」に当たり得ます いじめにより心身に重大な被害が生じた疑いがある場合(PTSDの発症など)や、相当の期間学校を欠席せざるを得ない場合は、いじめ防止法第28条の重大事態に該当し得ます。学校設置者には、速やかに事実関係を明確にするための調査を行う義務が生じます。 |
4. 集団で受けた被害と、法的責任

集団によるいじめでは、「誰がどこまで関与したのか」が曖昧になりがちです。しかし、四層構造の考え方が示すように、直接手を下した者だけが責任を負うわけではありません。はやし立て、同調し、その場の空気を作った行為も、被害を深刻化させた要因として評価され得ます。学校が、観衆・傍観者を含む集団全体への指導を怠っていた場合には、その指導の不十分さ自体が、学校の安全配慮義務違反として問題になります。
| 請求の相手方 | 適用される主な法律 | ポイント |
| 加害生徒本人 | 民法第709条(不法行為) | 中学生以上は責任能力があるとして本人への直接請求が可能 |
| 加害生徒の保護者 | 民法第714条/第709条 | 監督義務違反などが認められる場合に責任を負う |
| 公立学校・自治体 | 国家賠償法第1条 | 教員・学校がいじめを認識しながら適切な対応・指導を怠った場合の責任 |
5. 被害を受けた子どもと家族ができること

◆ 記録と証拠の保全
生徒総会の議事録、当日の録音や映像、全校アンケート、面談記録など、その場の状況を裏づける資料は重要な証拠になります。長野の事案でも、県教委はこうした議事録・全校アンケート・面談記録から事案を検証しました。学校が保有する記録の開示を求めることも検討しましょう。
◆ 重大事態としての調査を求める
PTSDの発症や長期の不登校は重大事態に当たり得ます。保護者は、学校・教育委員会に対し、第三者性のある調査委員会の設置と、観衆・傍観者を含む集団全体を視野に入れた調査を求めることができます。
◆ 弁護士に相談するメリット
- 集団によるいじめの関与の度合いを、証拠に基づいて整理できる。
- 学校の指導不足・安全配慮義務違反を法的に主張できる。
- 傷ついた子どもを、加害生徒や学校と直接対峙させずに済む。
- 重大事態調査の申立てから損害賠償請求まで一貫して支援できる。
6. 学校行事・自治活動の場でも、学校の責任は変わらない

生徒総会や生徒会活動は、子どもたちの自主性を育む大切な場です。しかし、「生徒の自治」だからといって、学校が安全配慮の責任から解放されるわけではありません。むしろ、全校生徒が集まる公の場だからこそ、一人の生徒が孤立し、責め立てられる事態が生じないよう、教員が場をコントロールし、必要に応じて介入する責任があります。長野の事案で県教委が「学校が指導を行うべきだった」と指摘したのは、まさにこの点です。約1時間20分にわたって特定の生徒が責め立てられる状況を、その場の大人が止められなかったとすれば、学校の対応のあり方そのものが問われます。
子どもの自治を尊重することと、子どもを危険な状況に放置することは、まったく別のことです。学校行事や委員会活動の場で被害が生じたとき、「生徒同士のことだから」と学校が一歩引いてしまうのは、責任の放棄になりかねません。被害を受けた子どもと家族は、その場に大人がいながらなぜ止められなかったのか、学校の安全配慮義務が果たされていたのかを、正当に問うことができます。
| 学校行事で被害が生じたときの着眼点 ・教員がその場に居合わせ、状況を把握できていたか ・エスカレートする前に、適切に介入・中止できたか ・事後に、観衆・傍観者を含む集団全体への指導が行われたか |
7. まとめ――「その場にいた全員」で考える

いじめを止められる可能性が最も高いのは、実はその場に居合わせた周囲の子どもたちです。だからこそ、国は観衆・傍観者を含む集団全体の問題としていじめを捉え、学校に対し、許容しない雰囲気づくりと適切な指導を求めています。お子さんが集団の中で傷つけられたとき、「一部の子の問題」と片付けず、学校全体の対応として向き合ってもらうことが大切です。判断に迷うときは、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。
| グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。 |
【出典】
- 朝日新聞社/Yahoo!ニュース「高1の生徒会長を『つるし上げ』 全校生徒の前で上級生 いじめ認定」2026年6月24日配信(https://news.yahoo.co.jp/articles/4098e66a2ce9b7b394690a6a2a561d5cef94683e)
- いじめ防止対策推進法第2条・第28条/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)第1の6・第2の3/文部科学省「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)
- (注)本記事はPTSD等の繊細なテーマに触れています。お子さんやご自身がつらい気持ちを抱えている場合は、24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)などの相談窓口や専門の医療機関にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
学校・いじめ
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。






