「いじめは確認できなかった」という拙速な対応 無視・仲間外れという見えにくい被害と重大事態――被害児童生徒の立場から弁護士が解説「いじめは確認できなかった」という拙速な対応
【この記事のポイント】
保護者が訴えたその日に関係児童へ聞き取りをし、「いじめの事実は確認できなかった」と即断する――この拙速な対応が、被害児童と家族の不信を決定的に深めます。埼玉県飯能市では、4年間にわたり複数の同級生から無視や仲間外れを受けてPTSDと診断された児童について、市教委が重大事態の調査報告書を公表しました。報告書は学校の拙速な対応を問題視しています。本記事では、無視・仲間外れという見えにくいいじめの深刻さと、安易に被害を否定してはならないという考え方を、被害児童生徒の立場から解説します。

1. その日のうちに「いじめはなかった」と言われて

1. その日のうちに「いじめはなかった」と言われて

わが子のいじめ被害を訴えた保護者が、最も傷つき、学校への信頼を失う瞬間の一つが、十分な調査もないままに「いじめの事実は確認できませんでした」と告げられるときです。加害児に少し話を聞いただけで、被害の訴えが否定される。被害を受けた子どもと家族は、「結局、信じてもらえないのだ」と孤立感を深めてしまいます。

2026年6月に報じられた埼玉県飯能市の事案では、市立小学校の児童が4年間にわたり、計5人の同級生から無視される、にらまれる、仲間外れにされるといった被害を受けたと訴え、不眠や自傷行為、腹痛などの症状からPTSDと診断され、長期間の不登校が続いているとされます。市の専門委員会は、児童が訴えた12件のうち9件をいじめと認定しました。報告書は、学校が保護者からの訴えがあった当日に関係児童へ聞き取りを行い、いじめの事実は確認できなかったと保護者に電話したことについて、拙速な対応が、対象児童と保護者の不信感を増大させたと指摘したと報じられています。

この事案が示すこと
・無視・仲間外れといった『見えにくいいじめ』も、重大な被害をもたらす。
・訴えのあった当日に『確認できなかった』と即断することは、拙速な対応として問題視され得る。 ・拙速な否定は、被害者・保護者の不信を増大させ、事態を長期化させる。

2. 「いじめは確認できなかった」と安易に言ってはならない

2. 「いじめは確認できなかった」と安易に言ってはならない

いじめの定義は、いじめ防止法第2条により、「被害を受けた児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」とされ、被害者の主観を軸に判断されます。学校が自らの主観や思い込みでいじめを否定し、対応を打ち切ることは許されません。

国のガイドラインは、被害者側から重大な被害が生じたという申立てがあった時点で、学校側が「いじめの結果ではない」「ただのトラブルだ」と考えたとしても、学校の主観で切り捨てず、重大事態が発生したものとして必ず調査に当たらなければならないとしています。そして、詳細な調査を行わずに軽々に「いじめはなかった」「学校に責任はない」と断定・発言することは、事態を重大化・長期化させる危険な行為であると、厳しく戒めています。飯能市の報告書が学校の対応を「拙速」と評価したのは、まさにこの考え方に沿うものです。

【重要】「確認できなかった」は「いじめがなかった」ではありません
短時間の聞き取りでいじめが確認できなかったとしても、それは被害が存在しないことを意味しません。加害児が事実を認めないことは珍しくなく、無視や仲間外れは特に表面化しにくい行為です。確認できないからこそ、丁寧で継続的な事実確認が必要なのです。

3. 無視・仲間外れという「見えにくいいじめ」

3. 無視・仲間外れという「見えにくいいじめ」

殴る・蹴るといった目に見える暴力と違い、無視・仲間外れ・にらむといった行為は、外形的な証拠が残りにくく、「ただ仲が悪いだけ」「気のせいではないか」と扱われがちです。しかし、継続的に集団から存在を否定され続けることは、子どもの心を深くむしばみます。飯能市の事案で、被害を訴えた児童が不眠・自傷・腹痛などの症状を示し、PTSDと診断され、長期の不登校に至ったことは、見えにくいいじめがもたらす被害の深刻さを物語っています。

見えにくいいじめの例なぜ見過ごされやすいか
無視・仲間外れ外形的な証拠が残りにくく、『仲が悪いだけ』と扱われやすい
にらむ・冷笑する瞬間的で記録に残りにくく、本人の主観の問題とされやすい
グループから意図的に外す『たまたま』を装われ、継続性・意図が見えにくい
SNS上での仲間外し大人の目が届かない場所で進行する

だからこそ、子ども本人や保護者の訴えは、学校が知り得ない重要な情報として、軽視されてはなりません。基本方針も、本人がいじめを否定する場合があることを踏まえ、表情や様子をきめ細かく観察して確認する必要があると示しています。

4. 重大事態としての調査と、被害者側への説明

4. 重大事態としての調査と、被害者側への説明

いじめにより心身に重大な被害が生じた疑いがある場合(PTSDの発症など)や、相当の期間の不登校が続いている場合は、いじめ防止法第28条の重大事態に該当し得ます。学校設置者は、速やかに調査組織を設けて事実関係を明確にする義務を負い、調査の結果は、被害児童生徒・保護者に適切に提供・説明されなければなりません(法第28条第2項)。飯能市が重大事態と認定して報告書を公表し、再発防止策として、各校のいじめ防止策の点検・見直しや、報告・連携体制のマニュアル整備を挙げたことは、こうした枠組みに沿った対応といえます。

保護者が確認したいポイント
・訴えに対し、丁寧で継続的な事実確認が行われているか
・『確認できなかった』で対応が打ち切られていないか
・重大事態に当たる疑いがある場合に、調査組織が設けられているか

5. 被害を受けた子どもと家族ができること

5. 被害を受けた子どもと家族ができること

◆ 訴えと対応を記録に残す

いつ、誰に、どのような被害を訴えたか、学校がどう対応したかを、日付とともに記録してください。「当日に確認できなかったと言われた」といった対応の経緯は、後に学校対応の不備を主張する際の重要な証拠になります。

◆ 子どもの心身のケアを最優先に

不眠・腹痛・自傷などの症状が見られる場合は、責任追及より前に、まず専門の医療機関に相談してください。診断書は、被害の深刻さを客観的に示す資料にもなります。

◆ 弁護士に相談するメリット

  • 拙速な対応・安全配慮義務違反を、法的観点から整理して主張できる。
  • 見えにくいいじめについて、断片的な事実をつなぎ、被害との因果関係を立証できる。
  • 重大事態としての調査の申立てを、記録に残る形で確実に行える。
  • 傷ついた子どもを直接矢面に立たせずに対応できる。

6. 一度の聞き取りで終わらせない――継続的な確認の重要性

6. 一度の聞き取りで終わらせない――継続的な確認の重要性

いじめの対応は、一度きりの聞き取りで完結するものではありません。とりわけ無視や仲間外れのような行為は、その瞬間をとらえることが難しく、一度の聞き取りでは「確認できない」のが、むしろ当然とも言えます。だからこそ、継続的な観察と、複数の児童生徒からの丁寧な聞き取り、保護者との連携が欠かせません。被害を訴えた子どもの様子を継続的に見守り、状況の変化を記録し、必要に応じて対応を見直していく――この積み重ねがあって初めて、見えにくいいじめに迫ることができます。

「当日に聞いて、確認できなかったので終わり」という対応は、この継続性をまったく欠いています。被害を受けた子どもにとっては、訴えがその場で否定され、対応が打ち切られたと受け止められ、深い不信と孤立を招きます。飯能市の事案で、報告書が再発防止策として、各校のいじめ防止策の点検・見直しや、報告・連携体制のマニュアル整備を挙げたのは、まさにこの継続的・組織的な対応の必要性を示すものです。一人の教員が抱え込むのではなく、学校全体・組織として粘り強く向き合う姿勢が求められます。

継続的な対応のために確認したいこと
・一度の聞き取りで結論を出していないか
・複数の児童生徒・保護者から丁寧に事実を確認しているか
・状況の変化を記録し、対応を見直す仕組みがあるか

7. まとめ――「信じてもらえなかった」を繰り返さない

7. まとめ――「信じてもらえなかった」を繰り返さない

被害を受けた子どもにとって、最初に勇気を出して訴えた言葉が「確認できなかった」と退けられる経験は、いじめそのものに匹敵するほどの打撃になり得ます。法律とガイドラインは、被害者の主観を軸にいじめを捉え、安易な否定を戒め、丁寧な事実確認を求めています。学校の対応に「拙速ではないか」と感じたら、その判断が本当に適切なのか、一度専門家に確認してみてください。お子さんの訴えが正面から受け止められるよう、私たちがお手伝いします。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典】

  • 埼玉新聞/Yahoo!ニュース「4年間のいじめ訴え、児童はPTSDに…計5人から無視や仲間外れ 腹痛、不眠、自傷行為、長期不登校 学校『いじめ確認できず』一転、重大事態認定」2026年6月22日(飯能市教育委員会の調査報告書公表)(https://news.yahoo.co.jp/articles/ce8915e6432ae4d2b435c3a140dedb20a255c1d2
  • いじめ防止対策推進法第2条・第28条/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)第3章・第4章/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)/文部科学省「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)
  • (注)本記事は自傷・PTSD等の繊細なテーマに触れています。お子さんやご自身がつらい気持ちを抱えている場合は、24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)などの相談窓口や専門の医療機関にご相談ください。
ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。