
| 【この記事のポイント】 いじめの重大事態調査は、公正・中立で、正確な記録に基づいて行われてはじめて、被害者の救済と再発防止につながります。和歌山県海南市では、いじめを受けた児童への9年間にわたる不適切対応に加え、市教委が第三者委員会に提出した調査資料に虚偽の記載があったなどとして、母親が告訴・告発したと報じられました。本記事では、いじめ防止対策推進法と国のガイドラインが求める調査の公平性・中立性・客観性、そして調査資料・記録の正確さの重要性を、被害児童生徒の立場から解説します。 |
1. 調査が「身内びいき」では、被害者は救われない

いじめの被害者と家族にとって、重大事態の調査は、真実を明らかにし、傷ついた心を整理し、再発防止につなげるための、いわば最後の砦です。その調査が、もし学校や教育委員会の「身内びいき」で進められたり、誤った・偽られた資料に基づいて行われたりすれば、被害者は二重三重に裏切られることになります。調査の公正さと、その土台となる記録の正確さは、被害者の救済を左右する決定的な要素です。
2026年6月に報じられた和歌山県海南市の事案では、2017年に当時小学1年生だった女子児童が同級生から殴られるなどのいじめを受け、卒業まで登校できなくなったとされます。母親は第三者による調査を求めましたが、市教委は当初これに応じず、批判が高まって一転、第三者委員会の設置を決めたと報じられています。今年3月、第三者委員会は、明らかにいじめ重大事態として認定すべきだったなどと指摘しました。さらに、市教委が第三者委員会に提出した調査資料に、別の資料を流用して捏造した虚偽の内容があったなどとして、母親が、名誉毀損や公文書偽造などの疑いで告訴状・告発状を提出したと報じられています。
| この事案が示すこと ・調査主体が当初『第三者調査』を拒むこと自体、被害者の不信を招く。 ・調査資料に虚偽・改ざんがあれば、調査の信頼性は根底から崩れる。 ・被害者は9年もの長期にわたって闘いを強いられることがある。 |
2. 調査に求められる「公平性・中立性・客観性」

いじめ防止対策推進法第14条第3項や第28条、国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)は、調査組織について、事案の当事者と直接の人間関係や利害関係を有しない第三者や専門家(弁護士・医師・心理の専門家等)を加え、公平性・中立性を確保することを求めています。
なぜ第三者性が重要なのか。それは、いじめの事案では、学校・教育委員会自身の対応の当否が問われることが少なくないからです。対応した当事者が自らを調査するのでは、公正な事実認定は期待できません。海南市の事案で、市教委が当初第三者調査に応じなかったことや、第三者委員会が「重大事態として認定すべきだった」と指摘したことは、調査の出発点における公正性の確保がいかに重要かを示しています。
3. 調査の土台は「正確な記録」

公正な調査も、土台となる資料が不正確であったり、偽られていたりすれば、誤った結論に至ります。国のガイドラインは、平時から、推測や感想のような記録ではなく、「いつ・誰が・何を・どうした」という客観的な事実関係を文書として適切に管理・保存することを求めています。そして、調査委員は、偏りのない資料を収集し、その信憑性を吟味し、特定の情報にのみ依拠することなく、客観的・総合的に分析・評価する責務を負っています。
| 【重要】記録の改ざん・捏造は、調査の信頼を根底から壊す 調査資料に虚偽の記載や他資料の流用・捏造があれば、その調査結果は信頼性を失います。被害者の救済と再発防止という調査の目的が達成できないばかりか、被害者を新たに深く傷つける重大な背信行為です。事案によっては、公文書偽造・虚偽公文書作成や名誉毀損など、法的責任が問われることもあります。 |
| 求められること | 根拠・ポイント |
| 当事者と利害関係のない第三者・専門家の関与 | 公平性・中立性の確保(法第14条第3項・第28条/調査ガイドライン) |
| 客観的事実に基づく正確な記録の管理・保存 | 推測や感想ではなく『いつ・誰が・何を・どうした』を記録 |
| 偏りのない資料収集と信憑性の吟味 | 特定情報のみに依拠しない客観的・総合的な分析・評価 |
| 被害者側への説明責任 | 調査結果の適切な提供・説明(法第28条第2項) |
4. 調査に疑問を感じたときにできること

◆ 調査の経過と資料の確認を求める
調査の進め方、委員の構成、依拠している資料について、被害者側は説明を求めることができます。第三者性が確保されているか、資料が正確かを確認することは、被害者の正当な利益です。
◆ 報告書・関係資料の開示を求める
調査報告書や、その基礎となった資料について、法第28条第2項に基づく情報提供を求めることができます。公的機関が保有する文書については、情報公開制度の活用も選択肢です。記載に疑義がある場合は、その根拠を具体的に質すことが重要です。
◆ 不正があれば、法的責任を追及する
資料の改ざん・捏造など、調査の公正さを損なう重大な不正があった場合には、損害賠償請求に加え、事案によっては刑事告訴・告発という手段も考えられます。海南市の事案で母親がとった対応も、こうした選択肢の一つです。どの手段が適切かは個別事情によりますので、専門家にご相談ください。
| 相談・通報窓口 ・教育委員会/首長部局:調査の公正性 ・資料の正確性について説明を求める ・情報公開制度:公的機関が保有する文書の開示請求 ・警察:公文書偽造・名誉毀損など犯罪に当たり得る場合 ・弁護士:調査への対応、資料の検証、損害賠償・刑事手続まで対応 |
5. 「たかがいじめ」ではない――長く続く闘いに寄り添う

海南市の事案で、母親は取材に対し、世間には『たかがいじめ』と思われるかもしれないと述べつつ、虚偽の内容で親子が引き離されそうになったこともあると語り、すべての公表を求めていると報じられています。被害から何年も経っても、家族は真実と誠実な対応を求めて闘い続けることがあります。その長い闘いに、被害者を一人にしない支えが必要です。調査の公正さは、被害者が前を向くための土台であり、社会全体で守るべき価値です。
6. 第三者委員会の「独立性」をどう確保するか

「第三者委員会」と名がついていても、その委員の選び方や運営の仕方によっては、実質的な独立性が損なわれることがあります。たとえば、調査の対象となる学校・教育委員会が、自らに近い立場の委員ばかりを選んでいないか。委員会の事務局を、対応の当否を問われている当事者部署が担っていないか。こうした点に、被害者側が目を配ることは重要です。国のガイドラインが、当事者と利害関係を有しない第三者・専門家の関与を求めているのは、形だけでなく実質において公正な調査を実現するためです。
被害者側は、委員の選任過程や委員会の構成について説明を求めることができますし、推薦の段階で意見を述べる機会が設けられることもあります。調査の独立性に疑問があるときは、その懸念を具体的に伝え、改善を求めることが大切です。海南市の事案のように、当初は第三者調査が拒まれ、批判を受けて一転して設置に至るというケースもあります。被害者が声を上げ続けることが、公正な調査を実現する力になるのです。
| 独立性を確認するための着眼点 ・委員に、当事者である学校 ・教委と利害関係のある者が含まれていないか ・委員会の事務局運営が、当事者部署から独立しているか ・委員の選任過程について、被害者側に説明があるか |
なお、調査の公正さを確保するうえでは、被害者側が孤立しないことも重要です。長期にわたる対応の中では、行政との交渉や資料の精査など、当事者だけで担うには負担の大きい場面が数多く生じます。弁護士などの専門家が代理人として関与することで、被害者側は対等な立場で説明を求め、資料の正確性を検証し、必要な手続を確実に進めることができます。一人で抱え込まず、早い段階で専門家の支えを得ることが、公正な調査を実現する力になります。
7. まとめ――公正な調査こそ、被害者救済の出発点

いじめの重大事態調査は、被害者を救済し、再発を防ぐためのものです。その調査が公正・中立で、正確な記録に基づいて行われることは、被害者の当然の権利です。調査の進め方や資料に疑問を感じたとき、「お役所のすることだから」と諦める必要はありません。法律とガイドラインは、公正で信頼できる調査を求めています。調査の公正さに不安があるときは、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。
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【出典】
- 読売テレビニュース「『いじめ』調査資料に市教委『コピペ』虚偽記載か 両親が告訴状・告発状を提出 和歌山・海南市」2026年6月24日(https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/ytv/nation/ytv-2026062409798135)
- いじめ防止対策推進法第14条第3項・第28条/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)第2章・第6章/文部科学省「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」(令和7年12月改訂)
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
学校・いじめ
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。






