部活動の「重大事態」と、矮小化の危うさ 『突発的な個別事案』という言葉に隠されるもの――被害生徒の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
部活動で部員が首を絞められ、一時意識を失う――そんな重大な被害が、『突発的な個別事案』として片付けられてよいのでしょうか。大阪府の東海大大阪仰星高校では、ラグビー部員が別の部員に首を絞められて意識を失い、脳振とうなどと診断された事案を、学校がいじめ防止対策推進法上の『重大事態』と認定しました。一方で学校は突発的な個別事案と判断し、部活動を継続しているとも報じられています。本記事では、暴力を伴ういじめの重大性と、被害を矮小化することの危うさを、被害生徒の立場から解説します。

1. 「一時意識を失う」ほどの被害が起きたとき

1. 「一時意識を失う」ほどの被害が起きたとき

部活動は、仲間との絆や成長をもたらす大切な場である一方、厳しい上下関係や閉鎖的な空気の中で、暴力やいじめが見過ごされやすい場でもあります。とりわけ、身体的な暴力によって意識を失うほどの被害が生じた場合、それは「指導」や「ふざけ」では到底片付けられない、重大な事態です。

2026年6月に報じられた大阪府の東海大大阪仰星高校の事案では、ラグビー部の男子部員が別の部員から首を絞められ、一時意識を失っていたことが分かりました。報道によれば、当時3年生の部員が別の3年生部員に背後から首を絞められ、意識を失って倒れ、後頭部を打ち、帰宅中にけいれんを起こして救急搬送され、脳振とうなどと診断されたとされます。学校は、この事案をいじめ防止対策推進法に基づく『重大事態』と認定しました。一方で、学校側は部員らへの聞き取りなどから『突発的な個別事案』と判断し、部は活動を継続しているとも報じられています。

この事案が示すこと
・首を絞めて意識を失わせる行為は、生命・身体に関わる極めて危険な暴力・傷害である。
・学校は『重大事態』と認定した。これは法的に重い意味を持つ。
・一方で『突発的な個別事案』という評価には、被害の矮小化につながる危うさがある。

2. 暴力を伴ういじめは、いじめであり犯罪でもある

2. 暴力を伴ういじめは、いじめであり犯罪でもある

いじめ防止法第2条は、いじめを、一定の人的関係にある他の児童等による物理的な影響を与える行為であって、「対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。部活動内の暴力も、被害生徒が心身の苦痛を感じていれば、いじめに該当します。

さらに、首を絞める、意識を失わせるといった行為は、暴行罪・傷害罪に当たり得る犯罪行為です。「先輩後輩の関係」「練習中の出来事」といった言葉で正当化されるものではありません。学校・部活動の指導者には、生徒を加害行為から守る安全配慮義務があり、これを怠った場合には、学校設置者が法的責任を負うことになります。部活動という特殊なコミュニティが形成されやすく、時にスポーツ指導の名の下に、昔ながらの考えをもつ顧問などによりいじめが助長あるいは正当化されるケースは、実は少なくありません。

3. 「重大事態」と認定した意味を、矮小化しない

3. 「重大事態」と認定した意味を、矮小化しない

いじめにより生徒の生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがあるとき、いじめ防止法第28条第1項が定める「重大事態」に該当します。意識喪失・脳振とう・救急搬送という結果は、まさに心身に重大な被害が生じた事案です。学校が重大事態と認定したことは、法的に重い意味を持ちます。

重大事態と認定された以上、学校設置者は、速やかに組織を設けて事実関係を明確にするための調査を行い、その結果を被害生徒・保護者に適切に提供・説明する義務を負います。ここで注意したいのが、『突発的な個別事案』という評価です。確かに、調査の結果としてそのような評価に至ることはあり得ます。しかし、それが調査を尽くす前の予断であってはなりません。国のガイドラインは、詳細な調査を行わずに軽々に結論を断定することを戒めています。『個別事案』という言葉が、背景事情の検証や再発防止の検討を省く口実になってはならないのです。

【重要】「個別事案」かどうかは、調査を尽くしてから
突発的・個別的に見える事案でも、その背景に、部内の人間関係、上下関係、指導体制の問題が潜んでいることは少なくありません。被害の重大性に見合った丁寧な調査を行い、背景と再発防止を検証することが、重大事態認定の趣旨にかなう対応です。

4. 被害生徒の安全と、部活動の継続

4. 被害生徒の安全と、部活動の継続

被害生徒と家族にとって切実なのは、加害生徒と同じ場で再び活動しなければならないのか、という安全の問題です。いじめ防止法は、被害児童生徒が安心して教育を受けられるようにすることを重視し、必要に応じて加害児童生徒への指導や、被害児童生徒を加害行為から守るための措置(別室での対応など)を求めています。部活動を継続する場合であっても、被害生徒の安全と心身の回復が最優先に確保されているか、加害生徒への適切な指導が行われているかが問われます。

請求の相手方適用される主な法律ポイント
加害生徒本人民法第709条(不法行為)高校生は責任能力があるとして本人への直接請求が可能
加害生徒の保護者民法第709条等監督に関する過失などが認められる場合に責任を負い得る
私立学校・学校法人民法第415条/第715条在学契約上の安全配慮義務違反、教員の過失についての使用者責任

5. 被害を受けた生徒と家族ができること

5. 被害を受けた生徒と家族ができること

◆ 医療記録・証拠の保全

診断書(脳振とう等)、救急搬送の記録、けがの写真は、被害の重大性を客観的に示す決定的な証拠です。あわせて、当時の状況を知る部員の証言や、部活動の記録なども、できるだけ早く確保しておきましょう。

◆ 重大事態調査への関与

学校が重大事態と認定した以上、被害生徒・保護者は調査の当事者です。調査の進め方や結果について説明を受け、背景事情や再発防止策が十分に検証されているかを確認することができます。『個別事案』という評価で済まされそうなときは、その根拠を具体的に質すことが重要です。

◆ 弁護士に相談するメリット

  • 被害の重大性に見合った調査・対応がなされているかを、法的にチェックできる。
  • 『突発的な個別事案』という矮小化に対し、背景の検証を求められる。
  • 被害生徒の安全確保(加害生徒との分離など)を学校に求められる。
  • 重大事態調査への対応から損害賠償請求まで一貫して支援できる。

6. 重大事態認定の「その後」に問われること

6. 重大事態認定の「その後」に問われること

学校が重大事態と認定することは、出発点であって終着点ではありません。認定の後にこそ、果たすべき手順があります。具体的には、速やかに調査組織を設けて事実関係を明確にすること、被害生徒・保護者に経過を報告し、調査結果を適切に提供・説明すること、そして背景事情の分析を踏まえた再発防止策を講じることです。これらが伴わなければ、「重大事態と認定した」という言葉だけが先行し、実質的な対応が空洞化してしまいます。

被害生徒・保護者は、重大事態調査の当事者として、これらの手順が適切に踏まれているかを確認する立場にあります。とりわけ、被害が重大であるほど、「突発的な個別事案」という評価が、背景の検証や再発防止の検討を省く理由にされていないかに、注意が必要です。意識を失うほどの暴力が、なぜ、どのような関係性の中で起きたのか――その問いに正面から向き合うことなしに、真の再発防止はあり得ません。被害生徒の安全が確保され、加害生徒への適切な指導が行われ、再発防止策が具体化されているか。これらは、被害者側が正当に確認できる事柄です。

重大事態認定後に確認したいこと
・調査組織が設けられ、事実関係の解明が進んでいるか
・経過報告と調査結果の説明が、被害者側に行われているか
・背景の検証を踏まえた具体的な再発防止策が示されているか

また、被害生徒が安心して学校生活や部活動に戻れるかどうかは、加害生徒への対応と切り離せません。いじめ防止法は、加害児童生徒に対する指導や、必要に応じた措置を通じて、被害児童生徒が安全に過ごせる環境を整えることを求めています。被害生徒が、加害生徒と同じ空間で活動を続けることに不安を抱えているなら、その不安に学校が正面から向き合い、具体的な安全確保の手立てを講じているかが問われます。形式的な「再発防止」ではなく、被害生徒が現に安心できているかどうかが、対応の真価を測る物差しです。

7. まとめ――被害の重さに、対応の重さを合わせる

7. まとめ――被害の重さに、対応の重さを合わせる

意識を失うほどの暴力を受けた子どもにとって必要なのは、被害の重さに見合った、真剣で丁寧な対応です。『突発的な個別事案』という言葉で片付けられ、十分な検証も再発防止もないまま日常が戻っていくとすれば、被害生徒は置き去りにされてしまいます。学校が重大事態と認定したことの意味を、最後まで重く受け止めてもらうこと――それが被害生徒を守ることにつながります。部活動での重大な被害にお悩みなら、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典】

  • 時事通信「ラグビー部でいじめ『重大事態』 首絞め、一時意識失う―東海大大阪仰星高」2026年6月22日(https://www.jiji.com/jc/article?k=2026062200760&g=soc)/関連報道(TBS NEWS DIG ほか)
  • いじめ防止対策推進法第2条・第23条・第28条/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。