
| 【この記事のポイント】 いじめ被害を訴えた子どもが、相談したはずの教員の心ない発言で更に傷つく――これが「二次被害」です。大阪府堺市の公立中学校では、自傷行為に及んだ生徒に対する教頭の発言を、第三者委員会が「生徒の辛い思いを踏みにじる行為」と指摘しました。本記事では、いじめ防止対策推進法が定める「被害者の主観」に立った認知の考え方を踏まえ、二次被害が起きる仕組み、SOSのサインへの正しい向き合い方、そして被害を受けた子どもと家族を守るために弁護士ができることを、被害児童生徒の立場に寄り添って解説します。 |
1. 相談したはずの大人に、二度傷つけられる――「二次被害」という問題

いじめに苦しむ子どもが勇気を振り絞って大人に助けを求めたとき、その大人の対応次第で、子どもの心はさらに深く傷ついてしまうことがあります。いじめそのものによる被害(一次被害)に加え、学校・教員・調査機関などの不適切な対応によって被害者が重ねて受ける精神的な打撃を「二次被害」と呼びます。二次被害は、被害を受けた子どもの「もう誰にも言えない」という孤立感を強め、回復を遅らせ、ときには不登校や心身の不調を決定的なものにしてしまう、極めて深刻な問題です。
2026年6月、大阪府堺市の公立中学校で起きた事案が報じられました。報道によれば、2022年から同校に通っていた女子生徒は、同級生からの仲間はずれや、部活動での「しね」「ゴリラ」といった暴言を複数の生徒から受け、一時は不登校にもなりました。生徒と母親は学校にいじめ被害を訴え、学校もいじめ事案として対応を進めていたとされます。ところが、生徒が授業中に自らの手の甲を傷つける自傷行為に及んだ際、説明のため自宅を訪れた当時の教頭が、自傷といじめの関連性が分からないという趣旨の発言をしたうえ、傷つけた部位が手首ではないことを理由に、苦痛の程度が異なるかのような発言をしたと報じられています。堺市いじめ重大事態調査委員会(第三者委員会)は、この発言を「生徒の辛い思いを踏みにじる行為」と指摘しました。
| この事案が示す重要なポイント ・子どもが発するSOSを、大人の主観で軽く評価してはならない。 ・「自傷の部位」や「程度」を理由に苦痛の大きさを値踏みする発言は、典型的な二次被害である。 ・学校が一次的にいじめと認識していても、その後の対応の質が問われる。 |
2. 法律は「被害者がどう感じたか」を出発点にしている

二次被害がなぜ起きるのか。その背景には、「これくらいで大げさだ」「本当にいじめなのか」と、大人が自分の物差しで被害を測ろうとする姿勢があります。しかし、いじめ防止対策推進法(以下「いじめ防止法」)は、まったく逆の発想に立っています。
いじめ防止法第2条第1項は、いじめを、一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的・物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。つまり、行為の重大性や加害者の意図ではなく、被害を受けた子どもが心身の苦痛を感じているかどうかが、いじめ該当性の出発点なのです。
国の「いじめの防止等のための基本的な方針」も、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うのではなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行う必要があると明記しています。さらに、「心身の苦痛を感じているもの」という要件を限定的に解釈してはならないこと、本人がいじめを否定する場合もあることを踏まえ、表情や様子をきめ細かく観察して確認する必要があることも示されています。
この考え方に照らせば、自傷というのは、子どもが「これ以上は耐えられない」という限界を全身で訴えている最大級のSOSです。それを部位や程度で値踏みすることは、法が求める「被害者の立場に立った認知」とは正反対の対応であり、子どもの苦痛を否定するに等しい行為だと言わざるを得ません。
| 【重要】自傷行為は「関心を引きたいだけ」ではありません 自傷は、言葉にできない苦痛を抱えた子どもが発する深刻なサインです。大人がこれを軽視・否定すると、子どもは「助けを求めても無駄だ」と感じ、孤立を深めます。まずは安全を最優先に確保し、本人を責めずに気持ちを受け止め、速やかにスクールカウンセラーや医療機関など専門的な支援につなぐことが必要です。 |
3. 二次被害になりやすい学校・大人の言動

二次被害は、悪意のない「励まし」や「アドバイス」の形をとることも少なくありません。被害を受けた子どもと家族の側が「これはおかしい」と気づけるよう、典型的なパターンを整理します。
| 二次被害になりやすい言動 | なぜ問題なのか |
| 「気にしすぎではないか」「もっと強くなれ」 | 被害の原因を被害者の性格や受け止め方に転嫁し、苦痛そのものを否定してしまう |
| 苦痛の「程度」「部位」を大人が値踏みする | 法が出発点とする『本人が感じている苦痛』を軽視する。堺市の事案で指摘された問題はこれに当たる |
| 「加害者にも事情がある」と被害者の前で擁護する | 被害者に『自分が悪いのか』と思わせ、声を上げる意欲を奪う |
| 事実確認を加害者中心に進める | 被害者の訴えが軽く扱われ、調査の公正さへの不信を生む |
| 「これは様子を見ましょう」と先延ばしにする | 対応の遅れが被害を深刻化させ、重大事態化を招く |
これらの言動は、たとえ担当者に「子どものためを思って」という意識があっても、結果として子どもを追い詰めます。重要なのは、大人の側の意図ではなく、子どもがどう受け止め、どれだけ傷ついたかです。
4. 二次被害を受けたとき、保護者ができること

◆ 記録を残す
面談や電話でのやり取りは、日時・出席者・発言内容をできる限り具体的に記録してください。「いつ・誰が・どのような場面で・どう発言したか」を残しておくことが、後に学校の対応の不備を主張する際の決定的な証拠になります。録音は、相手に無断であっても自己の権利を守るための記録として、原則として違法ではないと考えられています。
◆ 子どもの心身のケアを最優先にする
責任追及や謝罪要求より前に、まず子どもの安全と安心の回復を最優先にしてください。睡眠障害・フラッシュバック・気分の落ち込みなどが続く場合は、早めに小児科・児童精神科・心療内科などの専門機関に相談しましょう。診断書は、被害の深刻さを客観的に示す資料にもなります。
◆ 「重大事態」としての調査を求める
いじめにより心身に重大な被害が生じた疑いがある場合や、相当の期間学校を欠席せざるを得ない場合は、いじめ防止法第28条が定める「重大事態」に該当する可能性があります。保護者は、学校・教育委員会に対し、第三者性のある調査委員会の設置と調査の実施を求めることができます。堺市の事案でも、生徒と母親の要望を受けて第三者委員会が設置され、最終的に14件もの行為がいじめと認定されました。
| 相談・通報窓口 ・学校/担任/スクールカウンセラー:まず事実を伝え、対応を記録に残す ・教育委員会:学校の対応が不十分なときは上位機関へ。重大事態の調査要求も可能 ・24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310):文部科学省設置の無料相談窓口。子ども本人・保護者の双方が利用可 ・法務局・地方法務局(人権相談):人権侵犯事件としての申告が可能 ・弁護士:法的手段が必要なときは早期にご相談を |
5. 弁護士に依頼することで変わること

- 学校・教育委員会との交渉力――弁護士名義の申入れにより、対応が記録に残る形で行われ、二次被害の抑止につながります。
- 二次被害そのものの責任追及――不適切な発言・対応が安全配慮義務違反や国家賠償法上の違法と評価される場合、損害賠償の対象になり得ます。
- 子どもを矢面に立たせない――弁護士が代理人になることで、傷ついた子どもが大人と直接対峙する負担を軽減できます。
- 適正な賠償額の算定――学校・加害者側の提示額を鵜呑みにせず、被害の実態に見合った賠償を求められます。
6. 二次被害は、それ自体が損害賠償の対象になり得る

「いじめをした子ども」だけでなく、不適切な対応をした学校・教員の責任も、法的に問われ得ます。いじめを認識しながら適切な対応を怠ったり、被害を受けた子どもをさらに傷つける言動をしたりした場合、それは学校の安全配慮義務違反と評価される可能性があります。公立学校であれば国家賠償法第1条に基づき自治体が、私立学校であれば在学契約上の義務違反として学校法人が、それぞれ損害賠償責任を負うことがあります。
二次被害の場面では、「発言は事実で、不適切だった」と学校側が認めることがあります。堺市の事案でも、市教委は教頭の発言について、事実であり不適切なものだったと認定したうえで、謝罪と再発防止に努めるとしていると報じられています。学校側が不適切さを認めること自体は前進ですが、被害を受けた子どもと家族にとっては、謝罪の言葉だけでなく、傷ついた心の回復に向けた具体的で誠実な対応こそが必要です。何が損害として認められ、どのような請求が可能かは、個別の事情により異なりますので、専門家による見立てが有効です。
| 二次被害で問われ得る学校側の責任(例) ・いじめを認識しながら適切な対応を怠った(安全配慮義務違反) ・被害を受けた子どもの苦痛を否定・軽視する発言をした(二次被害) ・調査や情報提供を不当に遅らせた、または怠った |
7. まとめ――子どものSOSを「踏みにじらない」社会へ

堺市の事案で母親は、いじめを訴えてから認定・公表まで4年を要し、その間に子どもが卒業してしまったことについて、被害者である子どもに寄り添った誠意ある対応ではなかったと述べています。被害を受けた子どもが本当に必要としているのは、迅速で、誠実で、何より自分の苦痛を否定しない対応です。法律は、その「子どもの立場に立つこと」を学校に求めています。もし学校の対応に不安や疑問を感じたら、一人で抱え込まず、できるだけ早く専門家にご相談ください。子どもが安心して前を向けるよう、私たちが力を尽くします。
| グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。 |
【出典】
・ABCテレビ/Yahoo!ニュース「【独自】いじめを受けて自傷行為をした女子生徒に、教頭が『手首ではないから気持ちの度合いが違う』と発言 第三者委は『生徒の辛い思いを踏みにじる行為』と指摘」2026年6月11日配信(https://news.yahoo.co.jp/articles/e22d6dd9c56a4d8582de55778b9e5a1e3f5e2c94)
・いじめ防止対策推進法/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)
・(注)本記事は自傷・いじめという繊細なテーマを扱っています。お子さんやご自身がつらい気持ちを抱えている場合は、24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)などの相談窓口や、専門の医療機関にご相談ください。
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
学校・いじめ
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。






