
| 【この記事のポイント】 強豪校の部活動という閉鎖的な空間では、上級生による暴力やいじめが「指導」「伝統」の名の下に見過ごされがちです。広島市の広陵高校では、野球部の上級生による集団的な暴力行為を第三者委員会がいじめと認定し、当時の監督の責任にも厳しく言及しました。本記事では、部活動内のいじめがなぜ深刻化しやすいのか、指導者の「報告すると不利益になる」という発言がなぜ二次被害なのか、そして重大事態の調査・第三者委員会の仕組みを、いじめ防止対策推進法と国のガイドラインに沿って、被害生徒の立場から解説します。 |
1. 「部活だから仕方ない」では済まされない

厳しい上下関係、長い時間をともに過ごす濃密な人間関係、勝敗や規律をめぐる強い圧力――部活動には、いじめや暴力が生まれやすく、また外から見えにくくなりやすい特有の土壌があります。被害を受けた生徒は、「チームに迷惑をかけたくない」「告げ口だと思われたくない」という思いから声を上げられず、加害行為が長期化・常態化してしまうことが少なくありません。
2026年6月、広島市の広陵高校を運営する学校法人が、野球部前監督で法人理事を務めていた人物の辞任を発表したと報じられました。報道によれば、同校の第三者委員会は、上級生による集団的な暴力行為をいじめに該当すると判断し、当時監督だった人物の責任にも厳しく言及していました。報告書の事実認定によれば、寮の自室で食事に関する部内ルールに反したとされる被害生徒に対し、上級生らが集団で暴力を振るったとされます。野球部をめぐっては、この問題を受けて昨年夏の甲子園大会を途中で辞退する事態にも至りました。
| この事案が示すこと ・「上級生による集団的暴力」は、部内の出来事であってもいじめ ・不法行為として法的責任を問われ得る。 ・第三者委員会は、加害生徒だけでなく、指導者・運営体制の問題にも踏み込んで責任を指摘した。 ・閉鎖的・同質的な指導体制そのものが、被害を生み、見えにくくする要因になる。 |
2. 「報告すると不利益になる」――指導者による二次被害

この事案で特に重要なのは、報告書が指摘した、指導者による被害生徒への働きかけです。報道によれば、報告書は、当時の監督が被害生徒に対し、関係団体への報告がチームの不利益につながるという趣旨の発言をしていたと認定し、これを「避けるべき二次被害」だったと指摘しました。被害生徒はその後転校に至っており、報告書はこの発言が転校の決定的な契機となったとも認定したと報じられています。
本来、被害を受けた子どもを守るべき立場にある指導者が、組織やチームの利益を優先して被害申告を思いとどまらせる――これは、被害そのもの(一次被害)とは別の、新たな加害(二次被害)です。子どもは「自分が我慢すればいい」「声を上げれば責められる」と追い込まれ、被害を訴える正当な権利を事実上奪われてしまいます。
| 【重要】被害を訴えることは、子どもの正当な権利です いじめや暴力の被害を学校・教育委員会・関係機関に申告することは、チームへの裏切りでも告げ口でもありません。いじめ防止法は、いじめを受けた児童生徒を守ることを学校の責務として明確に定めています。被害申告を萎縮させる言動は、その責務に反するものです。 |
3. 部活動内のいじめにも、いじめ防止法は適用される

いじめ防止法第2条は、いじめを、一定の人的関係にある他の児童等による心理的・物理的な影響を与える行為であって、「対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。教室の中か部活動の中かは問いません。上級生による暴言や暴力も、被害生徒が心身の苦痛を感じていれば、いじめに該当します。
さらに、暴力を伴ういじめは、刑法上の暴行罪・傷害罪に当たり得る犯罪行為でもあります。「指導」「しごき」「伝統」といった言葉で正当化されるものではありません。学校・部活動の指導者には、生徒を加害行為から守る安全配慮義務があり、これを怠った場合には、学校設置者が法的責任を負うことになります。
| 請求の相手方 | 適用される主な法律 | 責任の内容 |
| 加害生徒本人 | 民法第709条(不法行為) | 中学生以上は責任能力があるとして本人への直接請求が可能 |
| 加害生徒の保護者 | 民法第714条/第709条 | 監督義務違反などが認められる場合に責任を負う |
| 公立学校・自治体 | 国家賠償法第1条 | 教員・学校が暴力やいじめを認識しながら適切な対応を怠った場合の責任 |
| 私立学校・学校法人 | 民法第415条/第715条 | 在学契約上の安全配慮義務違反、教員の過失についての使用者責任 |
4. 「重大事態」としての調査と第三者委員会

いじめにより生徒の生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがあるとき、または相当の期間学校を欠席せざるを得なくなった疑いがあるときは、いじめ防止法第28条第1項が定める「重大事態」に該当します。重大な暴力被害や、被害による転校・不登校は、まさにこの重大事態に当たり得ます。
重大事態に該当する疑いがあるとき、学校設置者または学校は、速やかに組織を設けて事実関係を明確にするための調査を行う義務を負います。ここで重要なのは、国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)が、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあった場合には、その時点で学校が『重大事態とはいえない』と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査に当たることを求めている点です。被害者側の申立ては学校が知り得ない極めて重要な情報であり、調査をしないまま『重大事態ではない』と断言することは許されません。
調査の公正・中立を確保するため、利害関係のない外部の専門家(弁護士・医師・心理や福祉の専門家など)で構成される第三者委員会が設置されることが望ましいとされています。広陵高の事案でも、この第三者委員会が事実認定を行い、加害行為のいじめ該当性のみならず、指導体制の問題にまで踏み込んで提言を行いました。
| 第三者委員会の役割 ・利害関係のない立場から、事実関係を公正・中立に調査する ・加害行為だけでなく、学校・指導者・運営体制の問題点も検証する ・再発防止に向けた提言を行い、被害者側への説明責任を果たす |
5. 被害を受けた子どもと家族を守るために

◆ 早期の証拠保全
暴力による傷は撮影日入りの写真と診断書を、暴言や仲間はずれはLINE・SNSのスクリーンショットや日時入りの記録を、できるだけ早く保全してください。部活動内の出来事は目撃者(他の部員)の証言も重要ですが、時間の経過で記憶が薄れるため、早期の確保が鍵になります。
◆ 指導者・学校への申入れ
「報告するとチームに不利益」といった圧力に屈する必要はありません。弁護士名義の内容証明郵便などで、事実調査・重大事態としての対応・再発防止を正式に求めることで、学校側の対応が記録に残る形で進み、二次被害の抑止にもつながります。
◆ 弁護士に依頼するメリット
- 閉鎖的な部活動・学校組織に対し、外部の専門家として対等に交渉できる。
- 暴力・いじめと被害(転校・不登校・心身の不調)との因果関係を、法的に整理して立証できる。
- 傷ついた子どもを、加害者や学校と直接対峙させずに済む。
- 重大事態調査の申立て・第三者委員会への対応・損害賠償請求まで一貫してサポートできる。
6. 請求できる損害と、慰謝料の考え方

部活動でのいじめ・暴力によって子どもが受けた被害は、「子ども同士のこと」「指導の一環」で片付けられるべきものではありません。法的には、次のような損害について賠償を求めることが考えられます。治療費・通院費(暴行による怪我の医療費やカウンセリング費用など)、精神的損害に対する慰謝料、いじめと因果関係が認められる転校・転居費用などです。被害が重篤・長期・悪質であるほど、また組織的・継続的な暴力であるほど、慰謝料は高額に算定される傾向があります。
もっとも、慰謝料の金額は、被害の内容・期間・悪質性、後遺症の有無、学校側の対応など、多くの要素を総合して個別に判断されるものです。インターネット上の「相場」を鵜呑みにせず、証拠に基づいて適正な額を見極めることが大切です。特に部活動の事案では、被害と転校・不登校・心身の不調との因果関係をどう立証するかが重要になり、証拠の出し方を誤ると正当な請求が認められないリスクもあります。だからこそ、早い段階での専門家への相談が、結果を大きく左右します。
| 【時効に注意】 いじめによる損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年(民法第724条)で時効にかかります。ただし、被害者が未成年の場合は成年(18歳)に達するまで時効の進行が猶予されるとされています(民法第158条)。早めにご相談ください。 |
なお、加害行為が暴行罪・傷害罪などの犯罪に当たり得る場合には、刑事手続(被害届・告訴)という選択肢もあります。民事の損害賠償と刑事手続は別個のものですが、被害の重大性を社会的に明らかにし、再発を防ぐうえで意味を持つことがあります。どの手段が子どもにとって最善かは、本人の心身の状態や被害の内容によって変わりますので、子どもの負担に配慮しながら慎重に選ぶことが大切です。
7. まとめ――「勝利」や「伝統」より大切なもの

どれほど名門の部活動であっても、勝利や伝統が、一人の子どもの心身の安全に優先することはありません。被害を受けた子どもが声を上げられるようにすること、その声を組織の都合で握りつぶさないこと――それが、いじめ防止法と国のガイドラインが学校・指導者に求めている姿勢です。部活動でのいじめ・暴力に悩んでいるなら、「部活だから」と諦める必要はありません。一人で抱え込まず、できるだけ早く専門家にご相談ください。
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【出典】
・産経新聞(産経ニュース)「いじめ問題の広陵高野球部 中井哲之前監督が法人理事を辞任 参与も7月末まで」2026年6月11日、矢田幸己記者(https://www.sankei.com/article/20260611-ZEV62DIVY5LFBMMTXMY2CBKHDI/)
・いじめ防止対策推進法/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
学校・いじめ
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。






