いじめの「重大事態」とは何か 過去最多の今、保護者が調査を申し立てる方法――被害児童生徒の立場から弁護士が解説
【この記事のポイント】
いじめの「重大事態」は、文部科学省の調査で過去最多を更新し続けています。重大事態とは、いじめにより子どもの生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑い、または相当の期間学校を欠席せざるを得ない疑いがある場合をいい、学校設置者には調査義務が生じます。本記事では、いじめ防止対策推進法第28条が定める重大事態の2類型と、保護者・児童生徒からの申立てがあれば学校が「重大事態ではない」と切り捨てられないこと、そして「疑い」の段階から調査が始まることを、被害児童生徒の立場に立って解説します。

1. 増え続ける「重大事態」――決して他人事ではない

1. 増え続ける「重大事態」――決して他人事ではない

文部科学省の調査によれば、全国の小中高校等で認知されたいじめは令和5年度に73万件を超え、過去最多を更新しました。そのうち、いじめによる「重大事態」の発生件数は1,300件を超え、こちらも過去最多となっています。報道や国の分析では、重大事態のうち相当数が、深刻な被害が生じるまでいじめとして認知されていなかったこと、学校が兆候を見逃したり、教員が一人で抱え込んでしまったことが急増の背景にあると指摘されています。

数字の増加は、必ずしも悪いことばかりではありません。学校や自治体が積極的にいじめを認知し、重大事態として正面から向き合うようになったことの表れでもあります。しかし裏を返せば、これだけ多くの子どもが深刻な被害に直面しているということでもあります。「うちの子に限って」ではなく、誰の身にも起こり得る問題として、重大事態の仕組みを正しく知っておくことが、子どもを守る第一歩になります。

2. 「重大事態」の2つの類型

2. 「重大事態」の2つの類型

いじめ防止対策推進法第28条第1項は、次の2つの疑いがあると認めるときに、学校設置者または学校が速やかに組織を設けて事実関係を明確にするための調査を行う義務がある、と定めています。

類型内容(いじめ防止法第28条第1項)具体例
1号 (生命心身財産重大事態)いじめにより、児童等の生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき自殺企図、重傷、精神疾患の発症、犯罪被害、財産の重大な毀損 など
2号 (不登校重大事態)いじめにより、児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき不登校が続いている(年間30日が目安。ただし日数のみで機械的に判断されるものではない)

ここで強調したいのは、いずれの類型も「疑い」があれば足りるという点です。被害が確定的に証明されてから動くのではなく、重大な被害の「疑い」がある段階で、学校は調査に向けて動き出さなければなりません。重大事態は、事実関係が確定した段階ではなく、「疑い」の段階から調査の実施に向けて動き出すべきものとされているのです。

【重要】不登校も「重大事態」になり得ます
いじめが原因で学校に行けなくなっている状態は、それ自体が重大事態(2号)に該当し得ます。「命に関わるほどではないから」と軽視されるべきものではありません。お子さんが学校に行けなくなっているなら、その背景にいじめがないか、重大事態としての対応が必要でないかを、学校に確認することができます。

3. 保護者・子どもの「申立て」がもつ力

3. 保護者・子どもの「申立て」がもつ力

多くの保護者が直面するのが、「学校がいじめだと認めてくれない」「これは重大事態ではないと言われた」という壁です。しかし、この壁は法とガイドラインによって明確に乗り越えられるようになっています。

国の「いじめの防止等のための基本的な方針」および「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)は、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあったときは、その時点で学校が『いじめの結果ではない』『重大事態とはいえない』と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たることを求めています。

その理由は明快です。児童生徒や保護者の申立ては、学校が知り得ない極めて重要な情報を含んでいるからです。家庭でしか見えない子どもの様子、学校が把握していない出来事――それらを学校が「自分たちはそうは思わない」という主観で切り捨ててしまえば、本当に救うべき被害を見逃すことになります。だからこそ、調査をしないまま「重大事態ではない」と断言することは許されない、とされているのです。

保護者が覚えておきたいポイント
・「重大な被害が生じた疑いがある」と申し立てれば、学校は調査に向けて動く義務を負う。
・学校が「重大事態ではない」と独断で結論づけることはできない。
・申立ては口頭でも可能だが、書面で行い、日付とともに記録を残すのが望ましい。

4. 申立てから調査までの流れ

4. 申立てから調査までの流れ
ステップ内容
① 被害の記録いつ・どこで・誰から・何をされたか、子ども自身の言葉も含めて具体的に記録。SNSのスクリーンショット、診断書、欠席記録なども保全する
② 学校への申立て「いじめにより重大な被害が生じた疑いがある」として、重大事態としての対応・調査を書面で求める
③ 学校設置者への報告・調査学校は設置者(教育委員会・学校法人)に報告し、事実関係を明確にするための調査組織を設置する
④ 第三者委員会による調査公正・中立を確保するため、利害関係のない外部専門家による調査が望ましい
⑤ 結果の説明・再発防止被害児童生徒・保護者に対し、調査結果が適切に提供・説明され、再発防止につなげる

学校が申立てに応じない、対応が遅い、形だけの調査で済まそうとする――そうした場合には、教育委員会や所轄庁への申入れ、弁護士を通じた正式な要求など、次の手段があります。被害を受けた子どもの時間は有限です。在校中に解決が図られず、卒業してしまってから結論が出るようでは、子どもの救済として十分とは言えません。早く動くことが、子どもを守ることにつながります。

5. 弁護士に相談するメリットと時効の注意

5. 弁護士に相談するメリットと時効の注意
  • 重大事態に当たるかどうかの見立てを、法的観点から整理できる。
  • 学校・教育委員会への申立てを、記録に残る形で確実に行える。
  • 調査の公正性・第三者性が確保されているかをチェックできる。
  • 調査と並行して、損害賠償請求の準備(証拠の整理・因果関係の立証)を進められる。
【時効に注意】
いじめによる損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年(不法行為の消滅時効・民法第724条)で時効にかかります。ただし、被害者が未成年の場合は、成年(18歳)に達するまで時効の進行が猶予されるとされています(民法第158条)。いずれにせよ、早期のご相談をおすすめします。

6. 「重大事態と認めない」と言われたときに知っておくこと

6. 「重大事態と認めない」と言われたときに知っておくこと

残念ながら、保護者の申立てに対して、学校が「これは重大事態に当たらない」「いじめとは認められない」と消極的な姿勢を示すことがあります。背景には、対応の負担や、問題が表面化することへの懸念があるのかもしれません。しかし、すでに見たとおり、児童生徒・保護者から重大な被害が生じた疑いの申立てがあれば、学校が主観的に「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査に当たることが、国の方針とガイドラインによって求められています。学校の主観で被害が切り捨てられてよいわけではありません。

それでも学校が動かない場合には、公立校であれば設置者である教育委員会へ、私立校であれば所轄庁(都道府県の私学担当部局)へ、適切な対応を求めて申入れを行うことができます。また、弁護士が代理人として関与することで、申立てや要求が記録に残る形で確実に行われ、学校・教育委員会の対応が変わるケースも少なくありません。大切なのは、「学校がそう言うのだから仕方ない」と諦めてしまわないことです。

学校が動かないときの選択肢
・教育委員会(公立)/所轄庁(私立)への申入れ
・弁護士名義での正式な申入れ(重大事態としての対応・調査の要求)
・必要に応じた損害賠償請求の検討と、そのための証拠保全

重大事態の調査は、犯人捜しや処罰のためだけに行うものではありません。何があったのかを明らかにし、被害を受けた子どもの回復を支え、同じ被害を二度と繰り返さないための再発防止策を導き出すことに、その本質的な意義があります。被害児童生徒・保護者は、調査の当事者として、結果の説明を受け、再発防止に向けた提言の内容を知る正当な立場にあります。調査を「学校に任せきり」にするのではなく、当事者として関与していく姿勢が、子どもを守ることにつながります。

7. まとめ――「疑い」の段階で動けば、子どもを守れる

7. まとめ――「疑い」の段階で動けば、子どもを守れる

重大事態は、被害が取り返しのつかないものになってから対応する制度ではありません。「重大な被害が生じた疑い」の段階で調査を始め、被害の深刻化を防ぐことにこそ、その意義があります。そして、その引き金を引く力を、保護者と子どもの「申立て」がもっています。学校の対応に疑問を感じたとき、「これは重大事態ではないか」と問いかけることを、ためらわないでください。判断に迷うときは、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典】
・文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(いじめの認知件数・重大事態発生件数)に関する各種報道
・いじめ防止対策推進法第28条/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)/文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂)第4章
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/

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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。