紛争の内容
ご相談にいらしたのは、いじめの被害に遭われたお子様と、そのご家族でした。
いじめといっても、その内容は決して軽いものではありませんでした。暴行を含む行為が、複数の同級生から加えられていたのです。子どもにとって、学校は一日の大半を過ごす場所であり、本来であれば安心して学び、友人と過ごすことのできる居場所であるはずです。その場所が、恐怖と苦痛の場に変わってしまう。お子様は心身に深い傷を負い、ついには学校に通うことができなくなってしまいました。不登校です。
ご家族の苦しみもまた、計り知れないものでした。わが子が理不尽な暴力を受け、学校に行けなくなっている。その姿を目の当たりにしながら、どうすればよいのか分からない。学校に相談しても、加害者側の家庭に話をしても、思うように事態が進まない。そうした行き詰まりのなかで、ご家族は当事務所に相談を寄せられました。
本件が難しかったのは、加害者が一人ではなく複数名に及んでいたことです。それぞれの家庭ごとに、事実の受け止め方も、責任に対する認識も異なります。ある家庭は真摯に向き合ってくれても、別の家庭は関与を否定するかもしれない。相手方が増えれば増えるほど、交渉は複雑になり、当事者だけで解決にたどり着くことは著しく困難になります。加えて、いじめの事案では、感情の対立が激しくなりやすく、当事者同士の直接のやり取りが、かえって傷を深めてしまうことも少なくありません。
交渉・調停・訴訟等の経過
当職がまず行ったのは、何が起きたのかを客観的な形で整理することでした。いじめの事案では、加害者側が事実そのものを否定したり、「遊びの一環だった」と矮小化したりすることが珍しくありません。そうした反論を許さないためには、いつ、どこで、誰が、どのような行為に及んだのかを、可能な限り具体的に、そして裏づけとともに示す必要があります。
当職は、お子様やご家族から丁寧に聞き取りを行い、関係する資料を収集して、加害行為の内容と、それによってお子様が被った損害を法的に整理していきました。
そのうえで当職が選択したのが、埼玉弁護士会の示談あっせん手続を利用するという方法でした。これは、弁護士会が設置する紛争解決の仕組みで、中立の立場にあるあっせん人が間に入り、当事者双方の話を聞きながら和解を目指すというものです。
なぜこの手続を選んだのか。理由はいくつかあります。第一に、訴訟に比べて手続が柔軟かつ迅速であり、お子様やご家族の負担を抑えられることです。裁判となれば、長い期間にわたって争いが続き、お子様が法廷で辛い記憶に向き合わされる場面も生じかねません。第二に、弁護士会という公的性格を帯びた場に加害者側を招き入れることで、当事者間の直接交渉では得られない真剣な対応を引き出しやすいということです。そして第三に、加害者が複数いる本件のような事案でも、一つの手続の枠組みのなかで整理して進めやすいという利点がありました。
当職は、複数の加害者それぞれのご家庭に対し、この手続への参加を求めました。そして、あっせんの場において、お子様が受けた暴行の態様、それによって生じた心身への影響、不登校という深刻な結果に至った経緯を、資料に基づいて具体的に主張していきました。感情に任せた非難ではなく、事実と法的責任という土台の上で議論を組み立てたのです。各家庭の受け止め方には差がありましたが、粘り強く協議を重ね、それぞれとの間で合意点を探っていきました。
本事例の結末
その結果、加害者側の各家庭との間で示談が成立し、お子様は合計一三〇万円の解決金を受け取ることができました。
もっとも、この金額をもって、お子様が失ったものが埋め合わされたと考えているわけではありません。学校に通えなくなった時間も、心に刻まれた傷も、金銭で元に戻るものではないからです。それでも、本件の解決には、金額以上の意味がありました。加害者側の各家庭が、示談という形で自らの責任を認めたということ。そして、被害を受けたのはお子様のほうであり、お子様に落ち度はなかったのだという事実が、公的な手続を通じて確認されたということです。
「自分が悪かったのではないか」いじめの被害に遭った子どもは、しばしばそう思い込んでしまいます。その思いを、外部の手続によって明確に否定してもらえたこと。それは、お子様がこれから前を向いて歩んでいくうえで、決して小さくない支えになったはずです。ご家族にとっても、なすすべもなく見守るしかなかった状況から抜け出し、わが子のために行動して結果を得られたことは、大きな意味を持ちました。
本事例に学ぶこと
第一に、学校でのいじめは、加害者やその保護者に対する法的責任を問い得る問題だということです。いじめは学校内で処理される事柄だと考え、法的な手段を思い浮かべない方は少なくありません。しかし、暴行のような行為は明確な不法行為であり、加害者本人はもとより、その監督義務を負う保護者に対しても、損害賠償を求め得る場合があります。泣き寝入りしなければならない理由は、どこにもありません。
第二に、弁護士会の示談あっせんという選択肢の存在です。紛争解決というと訴訟ばかりが思い浮かびますが、弁護士会が設けるあっせん手続は、より柔軟かつ迅速で、当事者の負担も比較的軽く済みます。とりわけ、被害を受けたのがお子様である場合、長期にわたる裁判の負担を避けられることの価値は大きいといえます。加害者が複数に及ぶ事案でも、枠組みを整えて進めやすいという利点もあります。もちろん、あっせんで解決に至らなければ訴訟という道も残されており、事案に応じて最適な手続を選ぶことができます。
第三に、いじめの事案では、事実を客観的に整理することが何よりの土台になるということです。記憶は時とともに薄れ、証拠も散逸していきます。お子様の様子に異変を感じたら、できるだけ早い段階で、日時や内容を記録に残しておくこと。医療機関を受診した場合には、その記録を保存しておくこと。こうした積み重ねが、後の交渉の場で大きな力を発揮します。
そして最後に、ご家族だけで抱え込まないでいただきたいということです。学校との話し合いが進まない、相手方の家庭が取り合ってくれない、どこに相談すればよいのか分からない。そうした行き詰まりのなかで、多くのご家族が孤立していきます。しかし、間に専門家が入るだけで、事態が動き出すことがあります。お子様のいじめ被害でお悩みの方は、どうか一人で、あるいはご家庭だけで抱え込まず、グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、お子様とご家族のお気持ちに寄り添いながら、取り得る手段を尽くしてまいります。
弁護士 時田 剛志






