【学校・いじめ】「そっとしておいて」と「調査義務」の板挟み~被害者・保護者が調査を望まない場合、学校はどう動くべきか

いじめ重大事態において被害者が調査を望まない場合でも、学校は再発防止と事実確認の責務を負うため、安易に調査を放棄してはなりません。ガイドラインでは、被害者の意向を尊重しつつ、関係生徒への聴取を行わず学校記録のみを確認する、結果を公表しないなど、柔軟な調査方法を提案することを求めています。拒否された場合でも、その経緯の記録、資料の保全、被害者支援の継続は不可欠であり、将来の検証可能性を残す対応が重要です。

調査は法律上の義務である

調査は法律上の義務である

いじめ問題において、学校側が「重大事態」として調査を提案した際、被害を受けた児童生徒や保護者から「もう思い出したくない」「大ごとにしたくない」「そっとしておいてほしい」として、調査を拒否されるケースは少なくありません。

被害者の心情としては痛いほど理解できるこの訴えですが、学校や教育委員会といった「学校の設置者」の立場からすると、法的なジレンマに直面することになります。「被害者が望まないなら何もしなくて良い」のか、それとも「嫌がられても調査すべき」なのか。

今回は、いじめ防止対策推進法(以下「法」)および文部科学省の最新ガイドラインに基づき、被害者側が調査を望まない場合の学校の法的義務と、推奨される実務的な対応について解説します。

「被害者の拒否」と「法的義務」の対立

「被害者の拒否」と「法的義務」の対立

まず大原則として、いじめにより「生命・心身・財産への重大な被害」や「相当期間の欠席(不登校)」が生じた場合、それは法第28条第1項に基づく「重大事態」であり、学校および設置者は調査を行う法的義務を負います。

ここで重要なのは、法律の条文には「被害者等の申し出に基づき調査を行う」とは書かれておらず、また「被害者が望まない場合は免除される」という規定も存在しない点です。

重大事態調査の目的は、単に加害者を特定することだけではありません。「当該重大事態に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため」に行われるものです。

つまり、その学校の教育体制や組織風土に問題がなかったか、教職員の対応にミスがなかったかを検証し、将来の生徒たちが同じ被害に遭わないようにするための「公益的な目的」が含まれているのです。

したがって、被害者や保護者が調査を望まない場合であっても、学校側は「被害者が望まないから調査しません」と安易に手続きを終了させることは許されません。もし調査を行わず、後に別の生徒が同様のいじめ被害に遭った場合、学校は安全配慮義務違反や、設置管理責任を問われるリスクが生じます。

ガイドラインが示す「柔軟な調査」のあり方

ガイドラインが示す「柔軟な調査」のあり方

では、被害者が拒絶しているのに、無理やり聞き取り調査を行うべきなのでしょうか。もちろん、そのような強引な手法は、被害者等の心理的負担を増大させ、二次被害を生む恐れがあるため避けなければなりません。

文部科学省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン(令和6年8月改訂)」は、この点について明確な指針を示しています。 ガイドラインでは、被害者・保護者が調査を望まない場合であっても、重大事態として取り扱わないことはあってはならないとしつつ、「調査方法や進め方の工夫により柔軟に対応できること」を説明するよう求めています。

具体的には、以下のような「限定的な調査」の提案が考えられます。

① 関係児童生徒への聴き取りを行わない調査

被害者が最も恐れるのは、「調査によっていじめの事実が広まること」や「加害者側からの報復・逆恨み」です。そこで、同級生へのアンケートや加害者への聴き取りは実施せず、教職員への聴き取りや、日誌・相談記録・指導要録といった「学校内の記録」の精査を中心とした調査を行う方法があります。これであれば、被害者のプライバシーを守りつつ、学校側の対応の検証(教員がいつ気づいたか、どう対応したか)を行うことは可能です。

② 調査結果を非公表とする対応

調査を行うこと自体は承諾しても、その結果が公表されることを拒むケースもあります。この場合、調査報告書を作成するものの、それを外部(報道機関やHP等)には公表せず、内部資料として再発防止策の検討にのみ使用するという取り扱いも可能です。もちろん、設置者(教育委員会等)への報告は必要ですが、社会的な公表を控えることで、被害者の安心感を確保できます。

学校は「0か100か(徹底的な調査か、何もしないか)」ではなく、このような中間的な選択肢を提示し、被害者側が納得できる範囲での事実解明と検証を行う姿勢が求められます。

「調査拒否」の背景にある不信感への対処

「調査拒否」の背景にある不信感への対処

なぜ、被害者や保護者は調査を拒むのでしょうか。

単に「忘れたい」というだけでなく、そこには学校への根強い不信感が横たわっていることが少なくありません。

「どうせ学校は自分たちを守ってくれない(隠蔽するだろう)」 「調査をしたところで、加害者が厳罰を受けるわけでもない」 「これ以上、学校と関わりたくない」

このような心理状態にある場合、学校側が事務的に「法律で決まっていますから」と調査を迫っても、心の扉は閉ざされる一方です。ガイドラインでも、事前説明においては一方的に説明するのではなく、被害者側の真意をよく聴き取り、信頼関係を築くことが重要であるとされています。

特に重要なのは、「調査の目的」の再定義です。

被害者側はしばしば、調査を「犯人捜し」や「責任追及」の場だと捉えています。

しかし、学校が行う調査の主眼は「事実関係の明確化」と「再発防止」です。「お子さんがなぜこのような辛い目に遭わなければならなかったのか、学校としての対応に至らない点はなかったか、それを明らかにして二度と繰り返さないために、可能な範囲で記録を確認させてほしい」 このように、学校自らが襟を正すための調査であることを誠実に伝え、被害者に寄り添う姿勢を見せることが、協力への第一歩となります。

自殺事案における「背景調査」の特殊性

自殺事案における「背景調査」の特殊性

いじめが原因で児童生徒が自ら命を絶ってしまった疑いがある場合、事態はさらに深刻です。この場合、「いじめ防止対策推進法」に基づく調査と並行して、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」に基づく対応が求められます。

自殺事案においては、たとえ遺族が「そっとしておいてほしい」と願ったとしても、学校が保有する情報の整理や教職員への聴き取りを行う「基本調査」は全件で実施しなければなりません。これは、学校の管理下にある児童生徒の死亡という重大な事実に対し、学校が説明責任を果たすための最低限の責務だからです。

その後の「詳細調査(第三者委員会等による調査)」については、遺族の要望が大きな判断要素となりますが、学校生活に関係する要素が疑われる場合などは、原則として移行すべきとされています。ただし、遺族が強く拒否している場合に、無理やり同級生へのアンケート等を行えば、遺族をさらに追い詰めることになります。そのため、ここでも「基本調査で得られた資料の範囲内で検証を行う」といった柔軟な対応が現実的な解となります。

「何もしない」というリスクの回避

「何もしない」というリスクの回避

最も避けるべきは、被害者からの「調査しないで」という言葉を鵜呑みにして、学校が思考停止に陥ることです。

「保護者の意向により調査しませんでした」という記録だけを残して蓋をしてしまうと、後になって「学校は何もしてくれなかった」「事実を隠蔽した」という批判に転じることがあります。実際、時間が経過してから被害者側の心情が変化し、「やはり真実を知りたい」と訴えるケースは珍しくありません。

しかし、その時にはすでに当時の資料が散逸し、関係者の記憶も薄れ、調査が困難になっていることが多いのです。

そのため、以下の対応を徹底する必要があります。

①資料の保全

調査を行わない場合であっても、将来の検証に備え、アンケート結果、相談記録、指導要録、学級日誌などの関係資料は確実に保全しておく必要があります。ガイドラインでは5年間の保存が望ましいとされています。

②支援の継続

調査を行わないことと、被害児童生徒への支援を行わないことはイコールではありません。調査を拒否されたとしても、不登校児童への学習支援や心のケア、加害児童への指導は継続しなければなりません。むしろ、調査という負担をかけない分、ケアに注力するという姿勢を示すことが重要です。

学校・保護者それぞれの視点

学校・保護者それぞれの視点

学校・教職員のスタンス

 「調査不要」と言われたとき、安堵してはいけません。それは「学校への諦め」の裏返しかもしれません。まずは「調査をしない」という選択肢をとる前に、被害者の負担にならない形での調査(教職員の聞き取りのみ等)を提案してください。そして、調査の有無にかかわらず、お子さんの心身の回復を最優先にサポートする意思を伝え続けてください。その誠意の積み重ねが、いつか「本当のことを話そう」という信頼につながるかもしれません。

保護者へのアドバイス

「そっとしておいてほしい」と思うのは当然の権利です。しかし、学校に「何もしなくていい」と伝えてしまうと、学校側の反省や改善の機会が失われ、うやむやにされてしまう恐れがあります。 もし調査への精神的負担が心配なら、「子どもへの聴き取りはしないでほしいが、先生たちの対応記録だけは検証してほしい」「第三者委員会には入ってほしくないが、校内での事実確認はしてほしい」といった条件付きの要望を出すことも可能です。 完全に蓋をしてしまうのではなく、「学校の責任」を明確にするための最低限の検証を求めることは、決してお子さんの負担になることばかりではありません。

おわりに

おわりに

「被害者が調査を望まない」という状況は、いじめ対応において最も判断が難しい局面の一つです。

しかし、法律とガイドラインが求めているのは、形式的な調査の強行でも、安易な事なかれ主義でもありません。

「被害者の尊厳を守る」という法の原点に立ち返れば、答えは見えてきます。

被害者の「今の平穏」を守りつつ、同時に学校としての「未来への責任(再発防止)」をどう果たすか。そのために、調査の範囲を調整したり、公表を控えたりといった「方法論」を柔軟に模索することこそが、プロフェッショナルとしての学校・設置者の役割と言えるでしょう。反対に、そのような対応をしていない学校・設置者に対しては、毅然とした主張・対応をしていく必要が大きいといえます。

最後に見ていただきたい学校問題サポートのこと

最後に見ていただきたい学校問題サポートのこと

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志

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